複雑怪奇な「有害事象」と「副反応」のまとめ

ワクチンの安全についての情報として、一般に(時にはマスメディアでさえも)あまり理解されていない概念として「有害事象」と「副反応」があります。


「有害事象」は、薬物(ワクチン)との因果関係がはっきりしないものを含め、薬物を投与された患者に生じたあらゆる好ましくない, あるいは意図しない徴候,症状,または病気を指します。「副反応」は、ワクチン接種によって起こる、免疫付与以外の反応のことを指します。ちなみに、ワクチン以外の薬品投与により起こる、主作用(病気を治療する作用)以外の作用のことは、「副作用」といいます。「有害事象」の例としては、「接種後に接種部位が腫れた」など接種との関連が想定されるもののほかに、「接種後に風邪をひいた」とか、「接種後に転んで骨折した」なども含まれます。


ところが、日本のワクチンに関する情報発信ではこれがさらにややこしいことになっているのです。


どういうことかというと、厚生労働省による「副反応の報告基準」において、通常なら「有害事象」という言葉を使うべきところで「副反応」という言葉を使っていて、この報告の結果出てくる「有害事象」の報告が「副反応」と呼ばれてしまっているのです。 わかりにくいので表にまとめてみました。


言葉の定義は日本薬学会「薬学用語解説」及びwikipediaを参照しました。


なんでこんなことになっているか、「2012年11月14日 第23回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会議事録」で経緯の説明を見ることができます。

○岡部委員 資料2、資料3に共通なのですけれども、副反応という言葉について、全てを副反応というふうにしているので、しばしば誤解があると思うのです。
 今までの部会あるは分科会でも有害事象の捉え方ということと、それから副反応ということをしていかないと、副反応という報告を求めているつもりでいながら有害事象が含まれていたり、本来は有害事象であるのに副反応という言葉がひとり歩きをしたりということがしばしば見られているので、本来は有害事象を集め、その中の副反応について検討するというようなあり方が正しいのではないか
と思います。


○加藤部会長 この件につきましては、私も同じような意見もありましたが、厚労省と少し話し合いをしまして、一定の見解を得ておりますので、正林課長から御説明をいただきます。


結核感染症課長 有害事象というのは、因果関係はあるもの、ないもの全てを有害事象として捉えると。
 副反応というのは、本来は、ある程度因果関係があると想定されるものが副反応という言い方をするので、今の岡部先生のような御指摘だったと思いますけれども、これは、日本語のニュアンスなのですが、有害事象という日本語から来るニュアンスは物すごく悪いものというか、むしろ言葉のニュアンスからすると、一般的な日本語の感覚としては有害事象と言ったほうが何となく因果関係がより強いものが集まってくるようなイメージで、恐らく一般人は捉えられるのではないかと。それで、私ども副反応の報告を求めるときに、予防接種法でやるときは、因果関係を問わずという形で報告を求めていますので、そのような修飾語をつけることによってやることができないかなと考えています
が、いかがでしょうか。


○加藤部会長 蒲生委員、私を含めて治験とかいろんなことを昔やった経験がある者としては、有害事象という言葉をよく使うのですけれども、一般の方々から見たときに、有害事象という言葉に関して違和感を感じられますか。


○蒲生委員 感じます。課長がおっしゃったとおりで、有害事象のほうが悪いことのように思います


○加藤部会長 ありがとうございました。ということでございます。どうぞ。


○岡部委員 確かに現在ではニュアンスもそうで、私も有害事象(Adverse events)という言葉が英語でスタートしたときは、そういうふうに思っていたんですけれども、しかし、例えばPMDAの治験のときでも、有害事象がこのぐらいで、その中から副反応と思われるのが、このくらいであるというような形になっていきますので、そこは言葉のつくり方に関連してくるのではないかと思います。むしろ、副反応報告として、これは委員会の名称も副反応の検討というと、そこに上がってくるものは全て副反応であると、非常にストレートにとられがちなので、むしろ言葉の定義をしっかりしていったほうがいいのではないかと、私は思うのですけれども。


○加藤部会長 どうぞ。


○蒲生委員 何度もありますように、任意という言葉を使ったがために受けなくてもいいというふうに誤解があるように、副反応と言ってしまうと怖い、有害事象だともっと怖いみたいになるので、因果関係があるとか、何か修飾語をつけたほうが一般の方にはわかりやすいのではないかと思います。


○加藤部会長 ありがとうございます。この件で何か御意見はありますか、今、岡部委員から提案があった、全部が副反応ではないので、有害事象という言葉が有用ではないかという御意見があります。一方では、課長がお話しになったように、蒲生委員の御意見と全く同じで、一般の方々から見ると、有害事象というのは、より大きな怖い予防接種をした後、生じるような症状と捉えられる可能性が高いと、こういう御意見でございますが、その中で、もう少し副反応という言葉を使うのであれば、修飾語のようなものを因果関係に問わず、因果関係とは関係なくというような意味合いを含めたうまい言葉ができないかと、こういうような御意見ですね。何か今すぐに知恵は出ませんね。


結核感染症課長 修飾語としては、因果関係を問わない副反応とか、因果関係のある副反応とか、きちんと使い分けながらやればいいかなと思いますけれども。


○蒲生委員 例えば、ワクチンによるとか、また、因果関係というのも一般的にはわかりづらいので、明らかにワクチンによる重篤なと、重篤というのも一般的にはわからないのですけれども、重い副反応、副反応は必ず出てもおかしくない、小さなものから大きなものまでいろいろありますので、その辺がわかりやすい言葉になると、よりお母様としては受けやすいと思います。


○加藤部会長 この件で、どうぞ。


○坂元委員 副反応と有害事象という言葉なのですけれども、特に実際に接種をやられている先生の中で、よく海外の文献を引用されるなかで、海外の文献は、ほとんどアドバースイベントで統一されていて、その翻訳用語が有害事象となっていて、その副作用に相当する英語というのがなかなかないということと、外国からの情報との整合性で、よく先生方からどういうふうに考えたらいいのかとの問いがあります。つまり副作用なのか有害事象なのかと聞かれます。ただ、国際的にはアドバースイベントという言葉で統一されているようには思うのですが、やはりインターナショナルなものとの整合性というのはある程度考えたほうがいいのではないかと思います。


○加藤部会長 ちょっと言葉の使い方は、なかなか難しいのですけれども、今、ここで一応、第2次提言の中では統一して副反応という言葉遣いをしておりますので、ここはひとつ副反応という言葉でのんでいただきまして、そして、機会があるたびに、各委員から出ましたような誤解を生じないような、岡部先生がおっしゃったような、または蒲生委員がおっしゃったような、直接これはワクチンと結びつくものではないというようなことを、各委員会において明示していただくというような方向づけにしていただきたい。言葉遣いとしては、これをまた覆しますと、第2次提言の言葉遣いもまた変えなければならないということになりますので、副反応という言葉遣いで整えさせていただきたいと、私自身は思いますけれども。どうぞ。


○岡部委員 それを含めて分科会で検討していただくというのは、いかがですか。分科会というのは、現行の副反応報告基準について検討する会をつくるというふうに書いてありますから、そこのところで含めて言葉のことも検討してもらうと。


○加藤部会長 いえ、ですから、言葉遣いはもう提言に出ていますので、できれば変えないで、このまま進めていただきたいと。どうぞ。


○岡部委員 今、たまたまコンピュータを見ているのですけれども、例えばWikipediaとか、楽天とか、そういうところにも有害事象という言葉の説明としてはきちんと出ているので、ここはむしろ明らかにしていったほうがいいと思います。2次提言をわざわざ変える必要はなくて、今後のこととしてやっていただければいいと思います。


○加藤部会長 では、北澤委員、どうぞ。


○北澤委員 私も今までの御意見と同じで、国際的な整合性ということもありますし、ワクチンも医薬品なのですから、やはり医薬品との整合性というか、言葉の面でも合わせていっていただきたいと思います。アドバースイベントを有害事象と訳すことが適当かどうかという問題は別途あると思うのですけれども、因果関係があるのかどうか、言葉の使い方を医療界全体で統一的に考えられるようにしていっていただきたい。医療者の中でも、副反応あるいは副作用という言葉の使い方について、ちょっとぐらつきがあるようにも思いますので、第2次提言の言葉遣いはこうだったとしても、ぜひこれから考えていっていただきたいと思います。
 

(略)


結核感染症課長 いろいろ御意見をいただきましたので、今後検討いたします。


○加藤部会長 では、この言葉遣いは、ちょっと私が預からせていただきまして、また、厚生労働省のほうとよくお話し合いをさせていただきたいと思います。そして、また、各委員からの御意見、どういう形かわかりませんけれども、お伺いをしてより正確に物事が伝わるような方向で行っていきたいと、それでよろしいですか。


第23回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会議事録より引用、強調はうさじま

なんと、驚いたことに、「有害事象」ということばはなんとなくイメージが悪いから、「副反応」って言葉を使っちゃえ☆という理由で、現在広く用いられている用語の定義から離れた使い方をしてしまっているようなのです。


例えば米国ではVAERSというワクチン有害事象報告システムがあります。これは、医療関係者だけでなく一般の人でも報告できるシステムですが、それにはきちんと説明がついていて、Adverse Eventは接種との因果関係を問わないと書かれています。Adverse Eventじゃ響きが悪いからSide Reactionにしとくわ☆なんて言ってません(それでもここのデータを曲解して難癖つける人たちもいます)。

VAERSでは、有害事象のデータを見る前にかならず以下のような解説を含むページを見るようなしくみになっています。

VAERS症例報告情報を解釈するために

VAERSのデータを評価する際に重要なことは、報告された事象はどれも因果関係が確立されたものではないことに留意することです。ワクチンが関与している可能性のある有害事象の報告(副作用の可能性のあるもの)が、すべてVAERSに提出されます。従って、VAERSはワクチン接種後のあらゆる有害事象に関するデータを収集しており、その事象が偶然ワクチン接種と同時期に起きたのか、真にワクチンによるものかは問いません。VAERSに寄せられた有害事象報告は、ワクチンがその有害事象の原因であることの証拠書類ではありません。


(原文)When evaluating data from VAERS, it is important to note that for any reported event, no cause-and-effect relationship has been established. Reports of all possible associations between vaccines and adverse events (possible side effects) are filed in VAERS. Therefore, VAERS collects data on any adverse event following vaccination, be it coincidental or truly caused by a vaccine. The report of an adverse event to VAERS is not documentation that a vaccine caused the event.


VAERS Dataのページよりうさじま訳


日本の予防接種行政が行きあたりばったりで一貫性がないというのは色々な場面で感じられることですが、このように、国民をなめたような情報発信を行っていては、予防接種への理解が深まるどころか、「『副反応』報道→パニックに→予防接種の中止→感染症の流行再燃」というシナリオを繰り返すばかりになってしまうのではないのでしょうか(風疹流行への反応を見ていると、「感染症で多少の犠牲者が出るのはしかたがないよね」というのが日本の共通認識なのかもしれませんが…)。「因果関係を問わないものであることを伝えることにする」と言っていますが、厚労省の公式サイトは情報検索が絶望的にしにくい上、報道機関による報道のクオリティも高いとはいえない状況で、正確な情報が広く伝わるとはとうてい思えません。


現在、厚生労働省の「接種後の副反応報告制度」では、予防接種の種類ごとに対象の症状を定め、病院若しくは診療所の開設者又は医師が「副反応」を報告する義務があります。対象の症状は、アナフィラキシー脳炎・脳症、けいれんなど、比較的重い症状や、特定のワクチンとの関係がありそうな症状に限定されています。日本における予防接種「副反応」の報道は、この報告制度に基づいたものになることが予想されます。今後、正確な情報がわかりやすい形で発信されるようになることを説に願います。