2015年12月17日WHO ワクチンの安全性に関する諮問委員会 HPVワクチンの安全性に関する声明

上記記事で取り上げられたWHOの声明の当該部分を訳してみました。毎度ですが、うさじまは医学・翻訳の専門家ではありませんので、用語の間違い等があるかもしれません。あくまでご参考、ということでおねがいします。

この声明はWHOのGACVS(ワクチンの安全性に関する諮問委員会)という専門家の委員会が出したもので、去年の3月にも同じようなものが出ていますが、これは厚労省の資料として翻訳したものを見ることができます。

コピペできないpdfなので、直接ごらんください。

今回の声明です。具体的な調査報告の部分はとばして、最初の段落と日本に言及しているところを訳してみました。ちょっと読みやすくレイアウトも変更しています。

2006年に初めて承認されて以来、世界で2億回分以上のHPVワクチンが出荷されている。世界保健機関(WHO)は、以下の条件において、HPVワクチンを国の予防接種プログラムに導入することを推奨する。

  • 子宮頸がん及び/またはHPV関連疾患の予防が継続的に公共の健康上の優先事項となっていること。
  • ワクチンの導入が計画的に実現可能であること。
  • 継続可能な資金が確保されること。
  • 当該国または地域における予防接種戦略の費用対効果が考慮されること。

GACVSはHPVワクチンについて生じた安全上の懸念について体系的に調査し、いくつかの報告を発表してきた。本日まで、本ワクチンに関する推奨を変更をきたすような安全性への問題は確認されていない。


Since first being licensed at the beginning of 2006, more than 200 million doses of HPV vaccines have been distributed globally. The World Health Organization (WHO) recommends that HPV vaccines be introduced into national immunization programmes provided that: prevention of cervical cancer and/or other HPV-related diseases constitutes a public health priority; vaccine introduction is programmatically feasible; sustainable financing can be secured; and the costeffectiveness of vaccination strategies in the country or region is considered1 . The GACVS has systematically investigated safety concerns raised about HPV vaccines and has issued several reports in this regard2 . To date, it has not found any safety issue that would alter its recommendations for the use of the vaccine.

日本が、被接種者における持続する疼痛その他の症状によって、国による定期接種の積極的な勧奨が差し控えられている状況にあることについては、追加コメントが必要である。国の専門部会による臨床データの評価の結果、これらの症状はワクチンと無関係であるという結論が得られたが、HPV予防接種(訳注、日本国内ではHPVワクチンは『子宮頸がん予防ワクチン』と呼ばれている)を再開するという合意には達しなかった。その結果、若い女性が、本来なら避けられたはずの、HPVによるがんになりやすい状況にさらされている。GACVSがすでに指摘しているように、安全かつ有効なワクチンを使用しなければ、実質的な被害がもたらされる可能性がある。

The circumstances in Japan, where the occurrence of chronic pain and other symptoms in some vaccine recipients has led to suspension of the proactive recommendation for routine use of vaccine in the national immunization program, warrants additional comment. Review of clinical data by the national expert committee led to a conclusion that symptoms were not related to the vaccine, but it has not been possible to reach consensus to resume HPV vaccination. As a result, young women are being left vulnerable to HPV-related cancers that otherwise could be prevented. As GACVS has noted previously, policy decisions based on weak evidence, leading to lack of use of safe and effective vaccines, can result in real harm.

村中先生の仰るとおり、かなり強い調子で批判していると感じます。

文書の次の段落では、継続的な医薬品安全性監視や有害事象報告システムの改善が重要である、とされています。これは日本では非常に遅れている部分であり、実際このような問題が起こった際に「ワクチンの副反応なのかどうなのか」を科学的に検証することが難しくなって、混乱と問題の長期化を招いていると思います。今後、他のワクチンや医薬品でも同様な状況が起こるおそれがあります。

(タイトル訳:世界はHPVワクチンが安全であると認めなければならない)

この声明の少し前にNatureに載った記事です。と言っても、これは論文ではなく専門家へのインタビュー記事(コラム)です。内容は、医学的な問題とは別のレベルでワクチンや薬などに対する社会的な不安が起こった場合に、どのような影響があるか、どうコントロールするのか、というような話。ここでも日本の話題が出ています*1

いくつかの国では、政治家が科学の側につく。そうでない国では、彼らは少数派の意見に屈する。日本はHPVワクチンの副反応の報告に曖昧な反応を示した。すなわち、調査中はワクチンの「積極的な」勧奨を取り下げながら、希望者には供給し続けた。調査によって、ワクチンとの明確な因果関係はないとされたが、勧奨は中止されたままである。

In some nations, politicians side with the science. In others, they bend to minority opinions. Japan reacted ambiguously to reports of HPV vaccine side effects: it withdrew ‘proactive’ recommendation of the vaccine while it investigated, but continued to provide the vaccine for those who demanded it. The investigations found no clear causal link to the vaccine, but the recommendation remains suspended.

この記事は、ワクチンをめぐる社会的な混乱の影響を軽視すべきではない、としています。たしかに、せっかく感染症を予防できる手段があるのに、社会的に受容されず、悪者扱いされて終わってしまってはとてももったいないです。

HPVワクチンの場合、性に関わるデリケートな問題に触れるものであったり、接種対象者が思春期であることなどから、導入に相当な慎重さが必要であったところを、現実には真逆であった…ということが大きいようです。

日本における現状については、毎回勉強になる「感染症診療の原則」がやはり参考になります。

上2つは情報の見方について、最後のエントリは自治体の調査のまとめとして、非常にわかりやすいです。


  

*1:サイトのコメント欄にも日本人からのコメントがたくさんついています。