「受動喫煙は悪」はでっちあげ?

2012年6月7日付 ニュースポストセブンに以下のような記事が掲載されました。

現代史家・秦郁彦氏による、「世界で初めて受動喫煙という概念を打ち出した」日本人・平山雄氏の1981 年の論文(平山論文)の批判です。批判の内容に、「なぜか日本ではなく、イギリスの医学情報誌『British Medical Journal(BMJ)』で論文を発表」したことや、それが「わずか3ページ」であることなど、言いがかりに近いようなことも含まれますが*1、この論文が当時あまり認められず、1984年の国際会議でも「平山理論は科学的証拠に欠ける仮説にとどまる」と結論された、というものです。


わたしはこの経緯は知りませんでしたし、平山論文も読んでおりませんし、その内容がどの程度妥当だったかもわかりません。それでも、上記記事の「受動喫煙説の口火を切った平山理論は、専門家が集う国際会議の場で「科学的根拠に欠ける仮説」と結論付けられたものにすぎない。その真偽も満足に検証されないまま、「疑わしきは罰す」というたばこ制圧が大手を振っているのだ。」という批判は的外れであると思います。なぜなら、平山論文以降、多くのデータが蓄積され、「受動喫煙は身体に有害である」という明らかな証拠が提出されているからです。


じつはこの「受動喫煙陰謀論」は以前からあったようで、2006年に日本呼吸器学会が以下のような声明を出していました。

2006年11月17日

受動喫煙と肺ガンの関連についての最新の証拠に基づいた見解


受動喫煙と肺ガンについての調査研究をくわしく分析した二つの専門機関の報告書―タバコ煙と受動喫煙の発がん性に関する国際ガン研究機構モノグラフ(2004年)、米国社会保健福祉省公衆衛生長官報告書「受動喫煙の健康影響」(2006年)―が出した結論は以下のとおりです。

  1. 家庭や職場での受動喫煙は、タバコを吸わない人が肺ガンになる危険を20〜30%増やします。
  2. 子供のときの受動喫煙もまた肺ガンの危険を増やします。しかし調査結果にはばらつきが見られます。これは、何十年も前の生活状態を正確につかむことができないためです。
  3. 肺ガンの予防のために受動喫煙をなくするには、屋内を完全に禁煙にするのが唯一効果的な方法です。分煙、空気清浄機、換気によって受動喫煙を防ぐことはできません。


上記の呼吸器学会のリンク先にはこれらの報告書の内容(データ、本文の抜粋日本語訳など)も掲載されています。その中には、1986年の時点で米国公衆衛生長官報告において受動喫煙の有害性が指摘されていたことを伺わせる記述もあります。

4 受動喫煙の健康影響:米国公衆衛生長官報告(2006年6月27日)より抜粋


結論
この報告書は、1986年の公衆衛生長官報告が論じた受動喫煙を再び取り上げている。その後20年間に、受動喫煙に関する調査研究に数多くの進歩が見られ、膨大なエビデンスが発表された。本報告書は、2004年の公衆衛生長官報告で策定された因果関係の有無を示す新たな用語を用いている。各章ごとにエビデンスの包括的レビュー、適切な場合エビデンス定量的に統合する作業、調査成績の解釈に影響する可能性のあるバイアスの発生原因の厳密な評価が行われている。本報告書のレビュー結果は、1986年度報告書の結論の正しさを再確認し補強するものだった。非喫煙者のタバコ煙への暴露について、科学的エビデンスに裏付けられた結論を以下に示す。

  1. 受動喫煙は、タバコを吸わないこどもと大人の生命と健康を奪う。
  2. 受動喫煙は、乳幼児突然死症候群、急性呼吸器感染症、耳の病気、重症気管支喘息のリスクを高める。+親の喫煙は、こどもの呼吸器症状を増やし、肺の成長を遅らせる。
  3. 大人が受動喫煙に暴露されると、ただちに心臓血管システムに悪影響があらわれる。また虚血性心疾患と肺ガンがおきやすくなる。
  4. 受動喫煙に安全無害なレベルのないことが科学的に証明されている。
  5. タバコ対策が相当進んだにもかかわらず、アメリカの数千万人のこどもと大人が、家庭や職場でいまだに受動喫煙にさらされている。
  6. 屋内における喫煙の禁止により非喫煙者受動喫煙暴露を完全になくすことができる。分煙、空気清浄機、エアコンディショニングによって非喫煙者受動喫煙を防ぐことはできない。


つまり、「受動喫煙の害なんてなかった」説は、一番最初に出た論文に不備があったことを取り上げて「なかったんだ!!」と強弁しているだけで、その後20年間以上にわたって積み上げられた多くのエビデンスを完全スルーしているという馬鹿げたものなのです。平山論文にいくら瑕疵があっても、その後もっと質が高い論文がたくさん書かれ、包括的レビューにより、受動喫煙による疾患リスク増加がはっきり指摘されているのです。

*1:研究者として英文のメジャーな雑誌に投稿するのは当然ですし、速やかに発表したい内容が短報という短い形式で報告されるのも普通です。