「おくすり手帳」、実際どうなの?-薬局薬剤師さんに質問してみた

ここ数年、なにかと話題になる「おくすり手帳」。「不要だ。利権だ」というジャーナリストがいたり、逆に「必要だ」という主張がネットで回ってきたり…。でも、実際のところ、特に持病もなく、お医者さんにいくのは健康診断や予防接種、たまに風邪などの一時的な体調不良のみ、子どももいない、という層には今ひとつ「ぴんとこない」ものではあります。うさじまもいちおう、持っていますが、体調悪くて病院に行く時には逆にこれを持っていこうと思いつく余裕がなくて、結局シールをもらって帰ったり…。でもそのシールを貼っておくと、一年後に「あの時効いた薬…なんだっけ?」と思い出せたりして意外と役に立つな、ということもあります。

本記事では、そんな「おくすり手帳ライトユーザー」のうさじまが、薬局で働いていらっしゃる薬剤師さんお二人に、「おくすり手帳のぶっちゃけ質問」をしてみました。


【答えて下さった方】
薬剤師Aさん:関西の薬屋さん。総合病院や大学病院の門前薬局でお勤め。最近は面薬局にも出没中。資料収集は趣味。Aさんには以前こちらの記事でもご協力頂きました。↓
「薬のプロ」に聞く、「添付文書」との付き合い方, うさうさメモ

薬剤師Bさん:@asamariko さん。 以前は病院で、現在は調剤薬局でお勤め。


Aさん、Bさんは働いていらっしゃる場所も違うし、面識も(たぶん)ないと思いますが、回答内容の大筋には違いがありませんでした。まず、お二人の話の「まとめ」から。

  • 服薬中の人、薬の副作用・アレルギーがある人は、おくすり手帳を持ち歩くことで、「もしもの時」(事故や災害など)に備えることができる。
  • たまにしか病院にいかない健康な人も、お薬手帳を活用することで、薬をより安全に、適切に使用できる。
  • おくすり手帳は、単なる服薬の記録でなく、「医療関係者に伝えたい、自分の健康情報」をポータブル化するものとして活用できる。
  • おくすり手帳を持たなくても、何らかの形で服薬や副作用の記録、健康情報を付けておくとよい。そのためのフォーマットも用意されている。

では、以下Q&Aになります。質問のお答えは、一部レイアウトやブログ上での読みやすさのために改変した以外は原文ママです。強調はうさじまによります。

「おくすり手帳って何ですか?」と患者さんに質問されたら、どう答えてますか?

Aさん
簡単には「処方されたお薬の履歴をまとめておくもので、お薬やサプリメントの飲み合わせや重複を確認する為に使います
詳しく答えるときは「外出時に倒れたり、急病になったり、休日に救急を受診した時に、薬の重複を確認したり、薬から分かる身体の状態から急病の原因を推測する為にも使います。災害時にはこの手帳をカルテ代わりに使う事もあります

あとは、その人と病態や必要に応じて

  • 一般名処方の場合に、調剤した医薬品の商品名を処方医に伝える
  • 病歴・副作用歴・腎機能の数値を伝えるツールである
  • 毎日持ち歩くのが望ましい

って内容も入れて説明する事もあります。

人によっては「お薬のみではなく、自分の健康状態を管理するための手帳」としての活用を勧める事もあります。

Bさん
いつ、どこの医療機関から、どのような薬を処方されたかの記録をつけるものです。カルテだと、その医療機関だけでの記録になりますが、お薬手帳は患者さん自身が持つことになりますので、複数の医療機関にかかられた場合も、一冊のお薬手帳の中で記録を管理することができます

「おくすり手帳、いりません。お金節約したいし」って言う患者さんには、どう答えますか?

Aさん
不要ならお薬手帳については「今後必要の際には知らせて下さい」とだけですかね。ただ、今回処方された薬剤の副作用やその他の要因で別の医療機関にかかる可能性もあるので、薬袋や薬情は服用終了後数日は保管しておく様に伝えたり、携帯電話・スマホタブレットを毎日持ち歩いているのなら、写真を撮って保管しておく様に勧めたりもしますEvernotegoogle drivedropboxのアカウントを持っていれば、そこにポイっと入れておく事も勧めたりします。タグで検索できる分、Evernoteが一番使いやすいかなー、ってのが個人的な印象です。

Bさん
私自身はお薬手帳は要らないという方に強制するようなことは言ってません。それぞれのご事情がありますので、理由はなんであれ持ちたくない方については、そうですかという感じで受け止めてます。

半年に一度、風邪で病院に行くくらいしか、医療機関を利用しない。前回もらったお薬手帳?なくした…ってな若い人にとっても、お薬手帳は必要でしょうか?

Aさん
職業上は「できれば持っていてほしい」と言いたいですw 現在服用している薬剤(市販薬、サプリメント、健康食品)との相互作用・重複のチェックがお薬手帳所持の主な目的ですが、過去の軽微なものも含めた副作用歴や「前にこの薬飲んだ時、あんまり効いた感じせーへんかったのに、なんでまた出てるん?」を解決するツールでもあります。もし過去に軽微な副作用もなく、処方された医薬品はキッチリ効果があったし、併用してる市販薬やサプリメントや健康食品もなく、全く問題無い、って人なら不要かもですね。【「おくすり手帳、いりません。お金節約したいし」って言う患者さん…】に回答したように、スマホや携帯に処方内容の保管を勧めます。また、副作用歴があるけど滅多に医者にも行かないし市販薬もサプリも使ってへんし...って方なら、せめて保険証に副作用歴のある薬の名前をシールor付箋なんかで張り付けておいてもらえれば、と思います。また、個人的にはほぼ日の健康手帳なんかでも持っていてくれれば良いなぁ、と思います。

Bさん
一見不要のように思えますが、今後も半年に一回しか行かないとは限りませんし。それに、過去にもらった薬が問題なかったかどうかの裏付けにもなりますので使用頻度が少ない方こそ活用されると良いかと思います。お薬手帳の裏表紙などにアレルギーや副作用のことをメモできるところもあります。ちょっと記入してあると、いざ医療機関にかかる時や、市販薬購入の時に禁忌症に該当していないかどうかの判断材料にもなります。

「忘れたからシールください」←迷惑?

Aさん
家でちゃんと貼っててくれるなら、迷惑ではないですw 毎回キチンと持ってきてくれてる人であれば、次回の来局時に貼付を確認して、貼っていないor紛失なら、希望があれば新たに発行して貼り付けます(ウチの職場の場合)。毎回手帳を持って来ずに「シールだけちょうだい」と言う人なら、その都度軽く【「おくすり手帳って何ですか?」と患者さんに質問されたら、どう答えてますか?】の内容を何度も説明します。でも、なんだかんだで「シールだけ」と言われれば出さざるを得ないのが世知辛いところでゴザイマスwお薬手帳」は単にシールを貼って自分で後から確認できるようにするものではないので、そこん所は分かってほしいと思います。

Bさん
今の薬局では手帳なしの点数でシールをお渡しして、次回必ずお持ちくださるようにお伝えしてます。ただ、薬局によってシールはお渡ししないところもあります。そのようなところは、お薬手帳の意義を説明した文書をお配りしていたりします。私個人は渡しても貼付しないケースをよく見ていたので、渡したくないです。

「薬剤服用管理指導」って、具体的にどんなことをしてるんですか?

Aさん
コンプライアンス、薬剤の相互作用、処方重複、症状の変化、副作用の有無、あたりのチェックです。あと、薬剤を使用・服用する際の注意事項を説明したり。検査結果について解説したり。吸入薬や目薬、点鼻薬インスリン投与の手技説明やデモンストレーションをする事もあります(最近は院内で看護師さんがする所もあるみたいです)。まぁ、診察室内で医師から受けたお薬の説明の更に補完ですかね。場合によっては、その中で出てきた医師に言えなかった「実は....」って事を後から医師にフィードバックする事もあります。別にチクリじゃないよ!!w

Bさん
患者さんお一人お一人についてカルテともいうべき薬歴を作成します。そこに患者さんの薬に関する情報を記録します。処方の都度処方内容のほかに、患者さんの状況、患者さんにお伝えしたこと、調剤で工夫したこと、患者さんからの問い合わせと回答内容、次回処方時への申し送り事項などを記録します。患者さんの服薬状況の確認もします。服薬遵守状況(きちんと飲めているか)、残薬、副作用の有無、服薬に影響を与えるような飲食物の摂取状況、あと併用薬や薬物療法以外の治療状況なども確認します。これらのデータは患者さんとの口頭でのやりとりや処方箋の記載内容だけでは限界がありますので、お薬手帳を拝見して他院の受診状況や併用薬をチェックしたりして、今処方されている薬が患者さんの治療過程においてどのような位置づけかを検討しながら調剤・服薬指導につなげていきます。もちろん、処方内容に疑義があれば、処方元の医療機関に照会をかけます。

「おくすり手帳」は電子版より紙の方がいいのでしょうか?

Aさん
どっちも一長一短ですが、今は紙の方がベターだと考えます。電子媒体の場合は、現在だとスマホ等の対応機器にインストールしたアプリ内でデータを展開する必要があり、いったん薬剤師に端末を預ける必要が生じること。また、薬局内に当該アプリへの記載に対応した機器設備が十分普及しておらず、規格の統一も無く、薬局側がそのデータ内容を保管する場合は、やはり手作業で電子薬歴へ入力・又は手で紙へ記載する必要があること(対応できない薬局・医院・病院内での投薬・与薬の記載漏れが生じる)。その作業の間、あるいは端末に触れない時間がいくらか存在すると、端末がスリープorロックされて解除操作が必要になること(これに関しては、以前TV番組でロック画面に出てくるお薬手帳アプリを開発中、というのを見たことがあります。iPhoneのカメラアプリみたいなものを想像してもらえると分かりやすいかと)。大災害の際にバッテリーが切れたり、アプリの変更した際に過去のデータが引き継がれない可能性etc. が考えられます。

紙のお薬手帳の場合は、内容を記載するのは「誰にでも出来る簡便さ」の点で電子媒体に勝ります。何か書き加えたい時もペンでササッと書けますし。水濡れや汚れに弱かったり、破損の可能性についても、これは電子媒体の端末も同じことだと思います。誤ってトイレに落とす可能性は、恐らく電子媒体よりも遥かに低いと思います(トイレで紙のお薬手帳を開く習慣がある人は別やけど)。薬局によって規格(紙のサイズ)が違っても対応可能ですし、停電しても使用可能です。バッテリーもないし。【「おくすり手帳って何ですか?」と患者さんに質問されたら、どう答えてますか?】の回答にも書いた「災害時のカルテ代わりに」が可能なのも紙媒体の手帳の方じゃないかと思います。

Bさん
うちの薬局では紙媒体でしか対応してません。一般的には紙媒体が主流ですので紙をお持ちになった方が無難だと思います。

医療情報を一括管理して、服薬情報もデータベース化することはできないのでしょうか?

Aさん
現在その構想が進んでいる筈です。住民基本台帳を整備する際にも医療情報の一括管理は実際に提案されましたが「プライバシーがー」等、一部の方々が中心になったクレームで立ち消えになった記憶があります。

ちなみに、静岡県ではこのような取組が成されています↓

一応、国でも事業としてはテストしてるみたいです、はい↓

この秋から実施されるマイナンバー制度とはまた別に、医療分野に限ったマイナンバー制度を整備しようぜ、って話はあるんですがどこまで実現するのか、いつ実現するのかはぶっちゃけ不明ですorz ↓

Bさん
そうなると便利でしょうね。国次第だと思いますが。

緊急時のことを考えると、薬を飲んでいる人は普段から「お薬手帳」を携帯したほうがいいのでしょうか?

Aさん
はい。飲んでいない人でも、副作用履歴や持病のある人、サプリメントを服用している人は持ってて欲しいです。
【半年に一度、風邪で病院に行くくらいしか、医療機関を利用しない…】でも回答した様に、副作用履歴や持病に関しては、保険証や身分証明書の裏にでもメモ書きを貼り付けておくのも良いと思います。また同じく【半年に一度、風邪で病院に行くくらいしか、医療機関を利用しない…】に記載した「ほぼ日の健康手帳」には無料でDLできる簡易版もあります。

神戸薬科大学の学生さん方が作成された「健康手帳」のPDFデータもあります↓

これらをDLして書き込み、財布や手帳の中に入れていてもらえばそれだけでも必要な情報を得る事ができると思います。ただし、この内容も必ず年に1回ぐらいは定期的に更新して欲しいと思います。

Bさん
その方が良いです。とにかく、その人が何を飲んでるかわからないと、今やろうとしている処置が妥当かどうかわからず、患者さんにとってデメリットになっては元も子もないです。今、手帳カバーに保険証や診察券が入れられるタイプのものもありますし。

実際に「おくすり手帳」で患者さんのリスクを回避できた、など(患者にメリットがあった例ならなんでも)事例があれば教えて下さい。

Aさん
あんまり詳しくは書けませんが、多いのは「類似名医薬品の処方ミス」の発見です。病院・診療所でも薬局でも、電子カルテ等に医薬品名を入力する時は、最初の数文字を入力して候補を挙げる→検索→目当ての薬剤を引っ張ってくる様に作られています。が、医薬品の名前は似たものが多いので、処方医の「ついうっかり」を見つける事が時々あります。例えば

  • これまで「マイスリー 10mg」(睡眠導入剤)だったのを「マイスリー 5mg」に変更しようとして、うっかり「マイスタン 5mg」(抗てんかん薬)にしてしまった
  • 新規の患者さんに「アスパラCA錠」(カルシウム剤)を処方するつもりが、うっかり「アスパラK錠」(カリウム剤)を処方してしまった

等です。

前者は、これまでもずっとウチの職場をかかりつけにしている患者さんだったので、薬歴(薬に関するカルテ)を確認してかかりつけ医から投薬された履歴&てんかんの履歴がないことを確認、手帳を確認して他医療機関からの処方歴が無いことを確認、それから本人に当日の診察時の医師からの説明内容と病歴を改めて確認して、医師の処方ミスの可能性が高い事を伝えて医師に疑義照会を行い、正しい処方は「マイスリー 5mg」である事を改めて確認しました。後者は、他医院からの紹介で新規で病院にかかられた方でしたので、処方せん受付時に預かった「おくすり手帳」で前の医師からの処方内容との違いを確認した後、本人に確認すると、医師からは「これまでの処方と変わらず服用する様に」との指示があったとの事で、「K」錠ではなく「CA」錠の間違いだろう、という事で疑義照会→処方変更に至りました。

あとは、相互作用で「禁忌」とされてるもの

  • ロスバスタチン(クレストール)服用中の患者に、シクロスポリン(ネオーラル等)を処方
  • シンバスタチン(リポバス等)服用中の患者に、イトラコナゾール(イトリゾール等)を処方

etc. その時のエピソードも(詳しく書けない。書きたいけどw)も相まって印象に残ってるものです。

お薬手帳から分かる患者の病態によって、処方用量の変更を医師に内容を照会したものもあります。医薬品の用量を調節するに当たっては、小児か成人かのみではなく、腎機能なんかも特に重要な情報の1つで、最近ではこれを役立てる為に処方箋に臨床検査値(血液検査や尿検査の結果など)を記載する病院も増えています。最初から書いていてくれればぶっちゃけ話は早いんですが、書いていない病院・医院も多く、また、患者本人も検査結果の用紙をもらっていなかったり、あるいは、貰っても検査結果の紙をもらってそのまま家でファイルして重ねてるわー、と言う事が残念ながら結構多くあります。患者の腎機能を推測するには、処方内容が大きなヒントになります。腎機能の低下によってCaやP等の値が変わり、補正する為の薬剤が処方され、腎機能のステージによって使用される薬剤が異なってくるので、だいたいの推測がつきます。ただ推測だけでは医師に疑義照会をかける根拠にはならないので、おくすり手帳から腎機能の状態を推測して、腎臓のかかりつけ医に連絡を取って最新の腎機能のデータを教えてもらい、腎機能の数値と処方用量を確認して、変更が必要と思われたので、処方医に疑義照会して用量を変更してもらった事があります。

また、検査結果の紙を毎回ノートに貼りつけていてくれたおかげで、その場で処方医に薬剤の用量について疑義照会した事もあります。この方は【「おくすり手帳って何ですか?」と患者さんに質問された…】でいう「自分の健康状態を管理するための手帳」として小さな手帳ではなく、もう少し大きなノートを買って、お薬手帳・血圧の記録・検査値を全てひとまとめにして持ち歩いていらっしゃいました。

Bさん
小児患者さんで、皮膚科で抗アレルギーをもらっているのに、他局調剤の耳鼻科でまた抗アレルギーが処方されていたので疑義してどっちかを削ってもらうということは日常茶飯事

リラックマなどのかわいいおくすり手帳、どうやったら手に入るのでしょうか?

Aさん
それを置いてある薬局(および中の人)に頼むか、困ったときの Amazonさんです。もしかしたら東急ハンズやロフトなんかでも売ってるかもしれません。
ただ、お薬手帳は形やサイズに規定は無いので、市販のメモ帳やノートで良いと思います。ただし、表紙にはそのノートが「お薬手帳」であることと、表紙裏には副作用・アレルギーの履歴の記載はお願いします。

ちなみに、職場では数年前からキャラクターもののお薬手帳を導入したのですが(小児患者が増えてきたため)、リクエストに応じて成人患者さん (主に女性) にもお渡しする様にしたところ、普段からのお薬手帳の所持率があがりました。複数の患者さんにお話を伺ったところ「これまでのお薬手帳は、表紙に『お薬手帳』と大きく書いてあるのが目立ったり、『いかにも』なデザインで、外で鞄を開けた際に他人から見られるのが嫌であまり持ち歩きたくなかったが、可愛いイラストの書かれたものだと、友達に見られても『ただの手帳』と言う事が出来るから、安心して持ち歩く事ができる」と回答されました。ただ、持ち歩いていただけるのは、やはりその必要性を理解してくれている方に限られる様な感じもします。

Bさん
薬局によっては取り寄せできることもあるようなのでご相談ください。ただ、キャラクターものは表紙だけなので、患者さんで自分で可愛くデコったオリジナルカバーをつけてらっしゃる方がいらっしゃいました。

Aさんのお話には「おくすり手帳を持ち歩きたくない」人のための情報も多く、とても参考になります。普段からITを活用して情報収集・整理に余年のないAさんが「紙のほうがいい」というのですから、現時点では「紙のおくすり手帳」がベターな選択なのでしょう。おくすり手帳って、普通の紙なので持ち歩くとボロボロになりそうですが、Bさんがおっしゃるようにかわいいカバーをつけるというのもひとつの手ですね。

最後に、Aさんから「災害とおくすり手帳」についてのお話を。

ちなみに、私は1995年の阪神淡路大震災の後に関西の私立大学の薬学部に入学しました。薬学部の授業では薬剤師国家試験を目標とした授業や、薬剤師としての実務を学びます。私が入学する暫く前には薬事法の改正や大きな災害があり、また、母校では病院・薬局・行政で実務に就いておられた方々が講師として教鞭を取っておられたので、薬剤師の実務を取り巻く変化に割と柔軟に対応し、また実際にその場にいた者としてどの様に動いたか、何が必要で、今後はどの様に変化すべきか、等を講義して頂きました(当時はそんなに真面目には聞いていませんでしたが)。

その中で「阪神淡路大震災の際にお薬手帳が活用された」との話を初めて聞きました。しかしどうやらこの話題は、当時はあまり広くは知られていなかったらしく、卒後、仕事を始めてから、他の大学を卒業した同僚にこの話をしても「聞いた事がない」との返答が多かったです。

2011年の東日本大震災に於いては「お薬手帳」が大きな役割を担った事をご存知の方はどのくらいいらっしゃるのか分かりませんが、被災地に入られた薬剤師さん達の手記を纏めた本があります↓

【「おくすり手帳って何ですか?」と患者さんに質問された…】に回答した様に、災害時にはどの様に使われたかの記載があるので、時間があれば読んでいただきたいと思います。

これ以外にも、2011年の大震災の折には病院・診療所・薬局が津波や火災で失われ、これまでの診療記録も同時に無くなってしまい、広域災害であった為に自宅から離れた場所に避難した為に「これまでもらっていた薬が分からない」となった人が多くありました。が、その一方で厚労省の英断により

お薬手帳等を持っていて、自身の常備薬が分かる場合には、当面数日分の処方に関してのみ

  • 医師の診察無しで
  • 各々の保険に応じた自己負担金額のみで
  • 対応可能な保険調剤薬局

投薬を受けることができる」

という通知を出しました。

東北からは遠く離れた土地ではありますが、毎日流れてくるfaxに「おぉ、英断!」と思い、学生時代に聞いた阪神淡路大震災の時の話を思い出しておりました