「働くお母さん」の半数近くが家事・育児をほぼ100%やっている

先日、労働政策研究・研修機構が発表した「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査」は、子育て中の親の状況(二人親・一人親、仕事、経済状態など)と子育ての関係についての調査で、いろいろと興味深いデータが掲載されています。ここでは、個人的に興味を持ったデータをご紹介します。


この調査は、全国の末子が18歳未満のふたり親世帯またはひとり親世帯を対象に、各2,000世帯ずつに調査票を渡して行いました。ふたり親世帯で回答があったのは1,435 票(うち、79 票は父親回答)でした*1。以下は、「4.仕事と育児への支援 (1) 家事と育児はどのように分担されているのか」(p.15)の図4-1です。

なんと、(調査に妻が回答した場合…これが全体の95%)母親が仕事を持っているか、持っていないかで夫婦間の家事・育児負担の比率がほとんど同じで、「妻ほぼ10割」が半分近くを占めているのです。


これは、回答した人(妻)の主観による回答ですから、偏りはあるかも知れません。実際、父親回答の場合には異なった比率になっています*2。また、「家事・育児」に何が含まれるか、質問には明確に定義されていないようですし、家事専任者がいる家庭とそうでない家庭では「家事」の総量は異なることも考えられます*3。さらに、「有職」には正社員、パート・アルバイト、嘱託・派遣社員が含まれ、p.4の表0−1「回答者の平均属性」から計算すると、それぞれ「有職」の29%、48%、23%を占めますので*4、「有職」とは言っても仕事に取られる時間(それを差し引いた家事・育児に費やせる時間)にはかなりの開きがあると考えられます。


これらのことを差し引いても、妻が仕事をしていても半数近くの夫がほとんどまったく家事・育児にかかわらない、ということに少し驚くとともに、これまで職場で出会ってきた「夫・父親」たち、「妻・母親」たちの姿を思い返すと、「ま、そんなもんだよね…」なんて思ってしまいます。自分のまわりにいる、「子育てしながら仕事をしている母親」のみなさんが、本当に忙しそうに、保育園のお迎えに間に合うために駅まで毎日走って帰ったり、職場の歓送迎会などで「今日は本当に久しぶりに羽を伸ばせる」と喜んでいる姿や、「月に半日、自分だけの時間をもらってる。ほっとできるのはその時だけ」という姿を見ているからです。


このような状況の背景には、男性の長時間労働があるかも知れません。

p.12の図表3-2 働く保護者の労働時間を見ると、二人親世帯の父親の38%が週50時間以上の長時間労働をしています。週50時間と言うと、週休二日勤務で一日2時間残業をしていることになりますので、家に帰ったら20時は過ぎているという感じで、そこから家事や育児なんてやってられないかも知れませんね。二人親世帯の母親で週50時間以上働いている人は7%となっていて、父親の1/5程度となっています。


それに加え、日本では「女は家事、育児。男は仕事」という規範が強く存在することを示すデータもあります。平成17年の内閣府経済社会総合研究所のレポート「フランスとドイツの家庭生活調査」に、以下のようなデータがあります。


男女とも、「女性は家事・育児に、男性は収入を得ることに責任がある」と考える人がドイツ、フランスに比べかなり多いです。日本では、「女性が働くこと」は普通のことになりつつありながら、「家事・育児は女性がするべき(そして男性は仕事をするべき)」という明治以来の価値観もまた根強いという状態なのです。


もちろん、そのほうがいい、家庭のことは自分がとりしきりたい、子供の世話は自分でしたい、という女性や、家庭は女房に任せて自分は仕事に専念したい、という男性も多いと思います。しかし、そうでない人もいます。「夫は帰りが遅いから(家にいないから)、協力は頼めない」「自分がやるしかないんだ」という声も、私の周囲ではよく聞きます。長時間労働で子供に会える時間が少ないことを嘆く男性もいるでしょう。「でも、それが当たり前だから」で、これからもずーっと、やっていくのでしょうか。やっていけるのでしょうか。性役割に対する全体の規範意識が強いために、仕事と家事・育児との両立がかなりしんどくても、声に出して言えない、諦めてしまっている、という女性もいると思います。また、この時代、男性にとって「自分が家族を養わなければならない」というプレッシャーは、かなり重くなっているのではないでしょうか。


男性も女性も、仕事や家庭との関わり方について、もう少し各個人の事情や志向に基づいてフレキシブルになれた方が、お互い楽になれそうな気がします。もちろんこれは個人の意識だけの問題ではありません。企業が労働者に求める働き方が、あまりに固定的で厳しい、ということと表裏一体の関係にあると思います。社会全体が、いちど「働き方」について考えなおすべき時に来ている気がします。

*1:父母のどちらが回答するかは各世帯の判断によるものです。4/17追記。

*2:ただしn数が少ないですし、父親が調査に回答していること自体、父親が家庭運営に積極的に参加しているバックグラウンドがあることを示している可能性もあります。

*3:ちなみに、この質問には「育児」も含まれていますから、専業主婦家庭といえども「ほぼ10割妻」であたりまえ、とはいえないのではないか…とも思います。

*4:父親回答の場合を含めていますが、父親回答は5%程度ですのであまり影響ないと思います