「ダメな科学」を見分けるためのおおまかな指針-訳文できました

に予想以上のご意見、アドバイスをいただき、訳文を作成しました!皆様、ありがとうございました!

「ダメな科学」を見分けるためのおおまかな指針
 
1.扇情的な見出し
記事の見出しは往々にして、読者に「クリックしたい」「読みたい」と思わせるように作られています。研究結果が単純化されすぎているのはまだマシな方で、ひどい場合には、内容が誇張されていたり、歪められていたりします。


2.結果の曲解
意図的かどうかはともかく、ニュース記事では、「よくできた話」にするために、研究結果をねじ曲げたり、曲解したりしていることがあります。記事を鵜呑みにせず、できれば、研究内容の原典を読んでみましょう。


3. 利益相反
多くの企業が、研究や論文発表のために科学者を雇っています。そういった研究が必ずしも無効であるとはいえませんが、分析する際にはそのことを念頭に置く必要があります。また、個人的または金銭的な利益のために、研究内容が偽って伝えられることもあります。
 

4.相関関係と因果関係の混同
相関関係と因果関係を混同しないように注意しましょう。「二つの変数が相関関係ある」ことは、必ずしも「一方が他方の原因である」ことを示しません。地球温暖化1800年代から進行しており、同時に海賊の数も減少していますが、海賊不足は地球温暖化の原因ではありません。


5.推測表現
研究結果からの推測は、まさに、単なる推測でしかありません。「〜だろう」「〜かもしれない」「〜の可能性がある」等の言葉には警戒しましょう。このような表現が用いられている場合、その結論の確かな証拠が研究によって得られているとは考えにくいからです。


6.小さすぎるサンプルサイズ
試験では、サンプルサイズが小さくなるほど、得られる結果の信頼性が低くなります。サンプルサイズが小さくなるのを避けられない場合もありますが、そこから導き出された結論については、上記のことを念頭に置いて検討するべきです。サンプルサイズを大きくすることが可能なのにそれを避けている場合には、疑念を抱く理由になるかもしれません。


7.代表的でないサンプル
ヒトを対象とした試験において、研究者は、母集団を代表するような個人を抽出するように努めています。もしサンプルが母集団全体と異なるものであれば、試験の結論もたぶん異なってしまうでしょう。


8.対照群がない
臨床試験においては、試験の対象となる物質を投与した「実験群」と、投与しない「対照群」の結果を比較しなければなりません。また、実験群と対照群は、無作為に割り付けなければなりません。一般的な実験では、変数をすべて統制したものを対照実験とします。


9.盲検試験が行われていない
バイアスを排除するために、自分が実験群なのか対照群なのかを被験者に知らせてはいけません。二重盲検試験では、研究者でさえも、試験終了までは、どの被験者がどちらの群かを知りません。(注意)盲検試験が必ずしも実現可能、あるいは倫理的でないことがあります。


10.結果のいいとこ取り
データの中から、結論を支持するようなものを採用し、そうでないものを無視するやりかたです。すべての結果ではなく、選択した結果から結論を導いている研究論文は、「いいとこ取り」をしているかもしれません。


11.結果に再現性がない
結果は独立した研究によって再現されなければなりません。また、一般性を保証するためには、(可能な範囲で)様々な条件で確認されなければなりません。途方もない主張には、それ相応の証拠が求められます−つまり、1つの研究だけでは、まったく不十分です!


12.ジャーナルと引用数
主要なジャーナル(専門誌)に発表された研究は、査読の過程を経たものですが、それでもまだ不備がある可能性はありますから、このガイドラインに書かれている注意点を念頭に置いて評価しなければなりません。同様に、その研究の引用数が多いからといって、必ずしも高く評価されているとは言えないこともあります。

原文
A Rough Guide to Spotting Bad Science

 頂いたご意見にいくつかお答えしたいとおもいます。


タイトルについて

「Bad Science」の訳を「ニセ科学」としたところ、多くのご批判を頂きました。その後、twitter経由で、多くの方にBad Scienceの訳についてのアドバイスを頂きました。「Bad Science」という言葉については定訳と言える日本語がない(つまり、日本にはない概念)のようです。頂いた例の中から、あまり非難がましくなく、ちょっと情けない感じで「ダメな科学」を採用することにしました。

  
  

誰を対象としたポスターなのか。内容が専門的すぎて素人に理解できない。

元のサイトでは

The vast majority of people will get their science news from online news site articles, and rarely delve into the research that the article is based on. Personally, I think it’s therefore important that people are capable of spotting bad scientific methods, or realising when articles are being economical with the conclusions drawn from research, and that’s what this graphic aims to do.

と言っていて、一般の人々もここにあるようなことを理解するべきであると考えられているようです。


しかしこのガイドラインは、「まず元論文読みましょう」からのスタートであり(項目3以降は論文の突っ込みどころの見つけ方ですから)、実際のところ、そのレベルの情報収集は素人には難しいかもしれません。特に日本人には英語で書かれた元論文を読むのは英語圏の人よりずっと敷居が高いわけです。そういう意味で、このガイドラインは「エントリーレベル向け」ではないと思います(ただ、一言で「研究」「論文」と言っても、色々「程度」があるんだよ、ということを示すことはできるかも)。ポスターですからどうしても字数に限りがあるという事情もあります。


ですから、(1)このポスターを、「わかっているひと」が「わかっていないひと」に「気をつけるべきポイント」について解説することに利用できるかも (2)本ブログでも、このポスターの解説記事を作ります(例もできるだけ載せて)(3)もしかしたら解説勉強会ができるかも…(4)科学的研究、科学と報道について興味を持ち始めた人(ある程度素養があってさらに勉強する気がある人)にはかなり役立つと思う(5)もっとわかりやすいエントリーバージョンを作る(イラスト付きができればいいんですが…)って感じです。

 

専門用語連発で難しく読んでもらえない。

まず前提として、このポスターについては、元の英文を日本語訳したものを作成することをまず初めの目標としています。元のポスターと同じイラストとレイアウトの日本語版を作成するわけです。ですから、元のポスターで専門用語を用いて表現しているところは、できるだけそれに対する定訳と言えるような日本語をあてるように努めました。上の項目にも書きましたが「わかりやすいエントリー向けバージョン」は次の課題だと考えています。

  

「Sample size」の訳について

かつてうさじまもやらかした間違いですが、Sample sizeを「サンプル(標本)数」とすると誤解をまねきます。医薬翻訳関係の本には、「症例数」「被験者数」の訳もあります。しかしここでは臨床試験に限った話ではないと思います(疫学なども含まれる)ので、「サンプルサイズ」の訳にしました。「サンプルサイズ」と「標本サイズ」では、前者の方が多く使われているようですので前者にしました。


コメント欄は5月11日(日)まで開けておきます。気になる部分があればコメントお願いします。twitterでもOK!

 
 

謝辞

ブログにコメント下さった皆様、twitter経由でコメントくださった皆様、ブコメつけて下さった皆様、どうもありがとうございました。とくに祭谷一斗 @maturiya_ittoさん、maanyaN @maanyaさん、麺さん、id:dunceさんには翻訳に関する多くのアドバイスをいただき、勉強になりました。