生理用品&紙オムツのダイオキシンについて(2)日本のタンポンのダイオキシン濃度
前回、生理用品&紙オムツのダイオキシンについて(1)アメリカの報告でアメリカのタンポン、紙オムツと食事からのダイオキシン摂取量の比較についての論文(以下、「論文」とします)を紹介しました。その内容は、2種類の計算方法(「スクリーニング分析」と「詳細分析」)により、タンポンで50倍〜2万倍、紙オムツで300々〜200万倍、食事からの摂取量のほうが多いと推測されると言うものでした。
日本製タンポンのタンポンのダイオキシン濃度
日本国内の生理用品はどうでしょうか?国内ではナプキンのシェアが圧倒的に多いと思いますが、残念ながらナプキンのダイオキシン濃度の資料は見つけることができませんでした。タンポンについては、角張光子著「ひろがれひろがれ エコ・ナプキン」に、2000年に株式会社金曜日が環境総合研究所に依頼して測定したデータが掲載されていました(p.94)。その値は以下のとおりです。TEQ等の単位の説明は、前回のエントリをご覧ください。
銘柄 | ダイオキシン濃度 (pg TEQ/g) |
-Co-PCBs (pg TEQ/g) |
---|---|---|
1 | 0.59 | 0.12 |
2 | 1.62 | 1.03 |
3 | 2.3 | 1.03 |
4 | 6.2 | 1.1 |
5 | 0.84 | 0.14 |
「ひろがれひろがれ エコ・ナプキン」 p.95より抜粋
論文の米国製タンポンのダイオキシン濃度(0.0013〜0.24 pg TEQ/g)と比べるとかなり日本製品は高い値になっています。その要因として考えられるのは、まず、日本のデータでは、論文では測定対象とされていないコプラナーPCBが含まれているということです。たとえば上の表で、特にダイオキシン濃度が高い4では、6.2 pg TEQ/gのうち5.1 pg TEQ/gをコプラナーPCBが占めています。ただし、後述する日本のダイオキシン類の食事からの摂取量のデータにもコプラナーPCBが含まれていますので、比較するにはコプラナーPCBを含むほうが適切でしょう。参考までに、コプラナーPCBを除いた値を記載しておきました(-Co-PCBs)。また、論文では、「検出限界以下」(測定機器で検出できる下限の少ない場合)では、「0」として計算していますが、日本のデータは、検出限界値の1/2であるとして計算しています(検出限界が0.1pg/gならば、0.05pg/g含まれているとする)。日本のデータの詳細は不明ですが、論文では比較的毒性の高いダイオキシン類のいくつかが検出限界以下であり、これが影響している可能性はあります。これらの要因のみで、2つの測定結果の差は説明できないかも知れません。しかし、実際に日本製のタンポンが米国製品より高濃度のダイオキシンを含むのかどうかについては、測定した機関も異なりますので、一概には言えないと思います。複数の測定データを比較することが必要でしょう。
日本人の食事からのダイオキシン摂取量
厚生労働省「平成21年度食品からのダイオキシン類一日摂取量調査等の調査結果について」を見ると、0.84 pg TEQ/kg/日(0.28〜1.49 pg TEQ/kg/日)と推定されています。ダイオキシンの摂取量は年々減少していて、この調査が行われた2000年(平成12年)には、1.45 pg TEQ/kg/日(0.84〜2.01 pg TEQ/kg/日)でした。以下では、平成21年の値を用いて考えています。
経口摂取量との比較は?
細かい数値を出すのはやめますが*1、論文の「精密分析*2」の値と比較してみると、日本のタンポンからのダイオキシン摂取量は食事からの摂取量の数百分の1~数千分の1程度になりそうです。上記の厚生労働省の調査結果には、「同一機関で調整された試料でもダイオキシン類摂取量の最小値と最大値には開きがあり、特に魚介類におけるダイオキシン類の濃度が広い範囲に分布していることが予想された」とありますので、この程度の摂取量でしたら、食事内容の違いによるバラツキの範囲内ではないでしょうか(たとえば、同資料では「国産天然サバ」で1.6 pg TEQ/gのダイオキシンが検出されたとされます。この鯖を100g食べれば、160 pg TEQのダイオキシンを摂取することになります)。「スクリーニング分析」の計算では、食事からのダイオキシン摂取量はタンポンからの2倍~20倍程度になりそうです。2倍だとすると、タンポン使用によりダイオキシン摂取量は1.5倍に増加することになり、無視できないかも知れません。ただし、このモデルは「タンポン中のダイオキシンがすべて体内に吸収される」という、あまり現実的でない仮定をしています。
平成11年、厚生労働省はダイオキシンのTDI(耐容一日摂取量。人が一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される体重 1kg当たりの1日当たり摂取量)を暫定的に4 pg TEQ/kg/日としています。上記の国産タンポンのもっとも高いダイオキシン濃度6.2 pg TEQ/g、タンポンの重量を4gとして、タンポン中のダイオキシンをすべて体内に吸収すると考える「スクリーニング分析」では、タンポンからのダイオキシン摂取量は0.5 pg TEQ/kg/日で、TDIの約12.5%となります。ただし、この「タンポン中のダイオキシンがすべて体内に吸収される」という仮定は現実的ではなく、最大限悲観的に考えてこの程度、という値です。パルプからのダイオキシンの染み出しやすさ等を考慮した「精密分析」ではこれより二桁ほど低い値(TDIの0.1%以下)になります。
これらの計算について、どう考えたらよいでしょうか。計算自体に、仮定がたくさんありますし、ダイオキシンの影響そのものがまだよく分かっていない部分もありますので難しいですね。ちなみに、「ひろがれひろがれ エコ・ナプキン」の、「有機栽培ネル生地」「無漂白ネル生地」を用いた布ナプキンのダイオキシン濃度はどちらも0.25 pg TEQ /g でした(ただし、タンポンとナプキンで特性が異なりますので直接比較はできないと思います)。どんなに気を使って作っても、残念ながらダイオキシンはゼロにはなりません。これは、環境中にすでにダイオキシンが拡散してしまっているからです。生理用品だけでなく、食べ物にもダイオキシンは含まれています(特に魚介類)。私たちは、否応なくダイオキシンと付き合っていかなければならない世界に生きています。けれど、厚生労働省のサイトには、「食事等による通常レベルの暴露において明らかな健康影響を示す知見は報告されていない」との記載もあります。日常レベルのダイオキシン曝露に、あまり神経質になる必要はないかもしれません。なんにせよ、どの程度ダイオキシンを許容するか、避けるか、難しいですが、自分で考えていくしかないようです。