海外科学雑誌が伝える「放射能より深刻な震災後の健康被害 」
2012年 3月7日 Katherine Harmon
Natureの記事ですが、論文ではなく米国の科学雑誌「Scientific American」の記事を紹介したものです。
記事では、日本での福島原発事故の現状や政府の対応、住民の置かれている状況を紹介し、米国、日本のいくつかの分野の専門家の見解を紹介しています。今のところ英文記事のみのようなので、専門家の見解の部分を要約してみました。
放射線の影響について
「1年が経ち、公衆衛生の専門家達の意見は、放射線への恐れは大げさだったということで一致している」としています。
- Peter Caracappa(レンセラー・ポリテクニック・インスティテュート放射線安全管理者、核工学臨床学准教授)の話。
- 立ち入り禁止の基準となった年間20mSvの被曝でのがんになる確率の増加は数千分の1パーセントだろう。
- 食糧の放射性セシウムによる汚染は起こりうるが、簡単な検査で発見できる。「見えない」化学物質による汚染とは異なる。
放射線以外の健康への影響について
Garfieldの「放射線による死者はほぼゼロだろう」という話のあとに、「しかし、これは事故が広範囲に及ぶ健康問題を起こしていないという意味ではない」と続いています。放射線以上に影響を及ぼす問題にはどんなものがあるのでしょうか。
- Kathryn Higley(オレゴン州立大学核工学・放射線保健物理学科長)は、「放射性同位元素より危険な可能性があるのは、地震や津波の跡に残されたがれきや散らばった化学物質。ズタズタになった建物や、工業団地、石油基地がある。発がん性物質は、セシウムと比べて検出するのがずっと難しい」としている。
- Garfield(前述)の話。
- 未だに、電力供給が大きな問題となっている。これは、直接的ではないが、取るに足らない問題でもない。ギリギリの健康状態にある人にとっては、暖房不足、冷房不足、照明不足、公共交通機関の減少によってすら、病気になったり死んでしまったりする事態を起こしうる。
- 幸い、日本はこのような災害に対する備えがあり、比較的早期に医薬品が流通できるようになった。ボランティアの医療チームも、他地方から駆けつけた。このような一時的に派遣される医療従事者は有用ではあるが、患者たちが震災の前から信頼を置いていた長年の主治医に変わるものではない。
- 被災者の多くは高齢で、伴侶や家族全員を失った人すらいる。阪神大震災のあと、政府は孤立した高齢者のための住宅を作った。が、政府は新しい家族を買い与えることはできない。
- そしてその他に、「計り知れない、評価不可能な」災害の影響がある。福島県から避難した人々が差別を経験したという報告があり、特に事故直後は何らかの形で「汚染されている」と見られた。
記事は、「これまでの過去の災害の後、新しい需要を満たす新しいサービスが発展してきた」として、「被災者は、災害の前よりもよいケアを受けられるようになるかもしれない」と結んでいます。
原発事故によって、国民の関心が「放射能」にのみ向かってしまっている傾向があるように思います。しかし、実際上の健康の問題としては、現在の「汚染」はそれほど重大なものではなく、もっと重要なことがあると、この記事は言っています。もっとも、この記事は外国人の視点で書かれたものであり、現実に「未曽有の放射能汚染」に立ち向かわざるをえない立場からすれば、やや楽観的な見解にも思えるし*1、「重大ではない」と言われても、心配してしまう気持ちは分かります。それでも、事故から1年が経とうとしています。そろそろ「放射能パニック」から抜け出して、現実的なリスクと影響の評価をすること、またそういう活動をされている方々を評価、支援していくことが必要なのではないでしょうか。まして、外野から不安を煽る行為や、放射能汚染と無関係な瓦礫の受け入れまで(線量測定してものでも)断固拒否するなどの「暴走」がいつまで続くのか…。
なおNature3月8日号(Volume 483 Number 7388)は東日本大震災関連の特集が組まれています。現在、サイトでは英文記事の全文が読めますが、「瓦礫の中から立ち上がる。津波から一年、大災害から得られた教訓。本特集は、「Nature ダイジェスト」特別編集版として、全文を日本語に翻訳し、発行致します。発売は4 月中旬を予定しております。」 (Natureのtwitterより)だそうです。