生理用品&紙オムツのダイオキシンについて(1)アメリカの報告

布ナプキンを普及、販売している人たちの間では、「市販の生理用品にはダイオキシンが含まれていて危険」という説が流布しているようです。この件について、自分なりにいろいろ調べてみつけた資料を紹介します。生理用品の安全性について考える際の資料にしていただけると嬉しいです。


今回紹介するのは以下の論文です。計算が主でちょっととっつきにくいのですが頑張ります。

Exposure assessment to dioxins from the use of tampons and diapers.
Michael J DeVito and Arnold Schecter
Environ Health Perspect. 2002 January; 110(1): 23–28.
訳:タンポン及びオムツの使用によるダイオキシンの曝露評価
概要:市販のタンポンとオムツ中のダイオキシンを測定、体内への摂取量を推定して、経口摂取量との比較を行った。


[測定した製品]
すべて、1997年、サンフランシスコで購入。
タンポンA、B:大型百貨店で購入。「メーカー品」。全米どこででも購入できるもの。Aはコットンとレーヨンの2種類
タンポンC:健康食品店で購入。
タンポンD:専門メーカーで注文。
オムツE、オムツF:タンポンA、Bと同じ大型百貨店で購入。
オムツG:タンポンCと同じ健康食品店で購入。
伝統的布おむつ(Cotton):タンポンA、Bと同じ大型百貨店で購入。


[測定機関]
ERGO Research Company(独)。WHOによりダイオキシン分析の認定を受けている。*1


[ダイオキシン類の毒性等量について]
こちらをごらん頂きたいのですが、ダイオキシンはいろんな物質の総称であり、毒性の強さがそれぞれ異なるので、最も毒性が強い2,3,7,8-TCDDの量に換算し、毒性等量(TEQ)として表します。例えば、ある物質が1pg(pgは10億分の1g)あったとして、その物質の毒性が2,3,7,8-TCDDの1/10であれば、0.1pg TEQとなります。


[測定結果]

Exposure assessment to dioxins from the use of tampons and diapers.より改変


WHO-TEFというのが、2,3,7,8-TCDDに換算した毒性の強さになります。Brand A〜Dがタンポンで、Brand E〜GとCottonがオムツです。表1が、それぞれのダイオキシン類の濃度で、表2はTEQに換算した結果です。タンポンは0.013〜0.24pg TEQ、オムツは0.0042〜0.023pg TEQでした。タンポンについては、「専門の会社に注文した」というDだけが高く、メーカー品では一桁低くなっています。オムツについては、布オムツも使い捨てオムツもダイオキシン濃度には差がないのですが、毒性の比較的強い2,3,7,8-tetrachlorodibenzofuran(TCDF)が検出限界ギリギリの0.1pg/g程度検出されたかされていないかでTEQには開きが出ています。著者らは、検出されたダイオキシンの種類から考えて、これらは製造工程で発生したものではなく、環境中に拡がっているものが混入しているのだろうと推測しています。


[タンポン、オムツからのダイオキシン摂取量]


Exposure assessment to dioxins from the use of tampons and diapers.より改変


2つのモデルで、タンポン/オムツから体内に吸収されるダイオキシン量を計算しています。詳しい計算式は元論文を見ていただくとして(リンク先から無料で見られます)、ざっくりと説明します。タンポンについては、一ヶ月に5日、一日6個タンポンを使用するとして、30日で割って一日の平均値を求めています。「スクリーニング分析」ではタンポン中ダイオキシンをすべて吸収したと仮定、「精密分析」では、ダイオキシンのパルプから人口尿*2への染み出しにくさ(分配係数)や、タンポンが吸収する経血量も考慮して計算しています。
オムツについては、生後6ヶ月までは1日に10個、6〜24ヶ月では1日に6個のオムツを使用するとして計算しています。「スクリーニング分析」では、パルプからのダイオキシンの経皮吸収率を3%*3とし、「精密分析」では、オムツに尿が45g吸収され、そこに染み出したダイオキシンの経皮吸収率を28%*4として計算しています。


[食事からのダイオキシン摂取量]
マーケットバスケット方式*5による推測によれば、アメリカでの食事からのダイオキシン摂取量は1〜6pg TEQ/kg/日であり、ここでは1pg TEQ /kg/日で計算しています。また、生後6ヶ月までは145pg TEQ /kg/日、6〜24ヶ月は3.6pg TEQ/kg/日としています*6


[食事とタンポン/紙オムツの比較]
表3、4はそれぞれタンポン、紙オムツからと食事からのダイオキシン摂取量の比較です。タンポンについては、もっともダイオキシン濃度が高いタンポンDに含まれるダイオキシンを全量吸収したとしても(スクリーニング分析)、食事から摂取するダイオキシンの量はその約50倍であると推定されました。ダイオキシンのパルプ繊維への吸着等を考慮した精密分析では、食事からのダイオキシン摂取量がタンポンからの約1万倍〜20万倍程度となりました。紙オムツについては、スクリーニング分析では約300〜2万倍、精密分析では3万〜200万倍程度、食事からの摂取量の方が多いと推定されました。


これらの分析はあくまでいろいろな仮定の元での計算であり、実測値ではないために注意が必要です。ただ、「全量吸収する」とした(ありえないような仮定の)計算でも、食事からのダイオキシン摂取量と比較して、タンポンやオムツからの摂取量はかなり少ないと言えるそうです。次回は、国産のタンポンのダイオキシン濃度のデータをこの計算に当てはめてみたいと思います。

*1:2005年にEurofinsという会社に買収された模様

*2:経血のデータがないので人口尿のデータを使っています

*3:パルプそのもののデータはないため、木綿繊維や有機成分の少ない土壌からの経皮吸収のデータを使っています

*4:水相からの経皮吸収のデータ

*5:スーパー等で売られている食品の中に含まれているダイオキシン量を測り、その結果に食品の喫食量を乗じて摂取量を求める

*6:母乳のダイオキシン濃度が高いため、乳児で摂取量が高くなっています