「予防接種を受けた人を中心にインフルエンザが大流行」は事実無根

ここ数日、ネット上を駆け巡った情報に「予防接種を受けた人を中心にインフルエンザが大流行」というものがあります。どこが出処なのか正確にはわかりませんが、同じような文章が出回っていますので、検索で一番上にきたサイトのテキストを紹介します。ただし、リンクはさせないので、確認されたい方はURLコピペして、頭にhを足して下さい。

  • 米 予防接種を受けた人を中心にインフルエンザが大流行  世界の裏側ニュース(ttp://ameblo.jp/wake-up-japan/entry-11452145095.html)

なお、このニュースの参照先はまたしてもNatural News(2013年1月11日付"Flu epidemic strikes millions of Americans already vaccinated against the flu")のようです。


今回は、記事の前半の以下の部分についてのみ検証します。

しかし、ワクチン業界としては知られたくない外聞の悪い秘密がある。それは、現在インフルエンザにかかっている人のほとんどがインフルエンザの予防接種を受けた人である、という事実である。


CDCはこの件に関する統計を一切、公開することを拒否している。もちろんそうすればインフルエンザ予防接種に関することが完全なでっちあげであることが暴露されてしまうからである。私は友人や専門家らの広範なネットワークに電話をかけまくっているが、皆が口を揃えて同じことを言っている。そのネットワークの知人で病気になっている人の内、3分の2が定期的にインフルエンザの予防接種を受けているのだ!


この点について、あなた自身の友人や家族、または同僚について確認してみるといい。病気になった人に、インフルエンザの予防接種を受けたかどうか、聞いてみるのだ。その結果は私が受けた結果と同じだろうか。3分の2だ。


もしこれがもっと大規模なデータセットにおいて当てはまったとした場合、つまりインフルエンザの予防接種を受けると、実際にはインフルエンザに感染しやすくなるということになる。なぜならアメリカの人口のうち、インフルエンザの予防接種を受けている人は、3分の2よりもずっと少ないからである。だから、今年インフルエンザにかかっている人の3分の2の人たちが予防接種を受けたのと同じ人であったとしたら、数学的に考えると、予防接種はインフルエンザに対する脆弱性を高めるということに他ならない。


こう考えると、予防接種を受けている人達は無責任な行動を取っていると言える。なぜならインフルエンザを他人に広めるリスクを高くしているからだ。ビタミンDのような栄養物で自らの健康を管理せずに、怠慢で、公衆の健康と安全に対する非常に現実的なリスクを高めるインフルエンザの予防接種を求めているからである。


結論から言うと、この部分はデタラメです。CDCのサイトに以下のような資料があります。

これはCDCの週報のようで、2013年1月18日付ですが、1月11日にMMWRのWebsiteに「early release」版として掲載されたとあります。内容は2012年12月3日〜2013年1月3日の間に急性呼吸器感染症で受診した1155例について、インフルエンザウイルス感染の有無をRT-PCR法により確認し、陽性・陰性それぞれのグループにおけるインフルエンザワクチン接種の有無を調べたものです。その結果、インフルエンザ陽性群ではワクチン接種者の割合は32%、インフルエンザ陰性群ではワクチン接種者の割合は56%だったそうです(Table2)。


Early Estimates of Seasonal Influenza Vaccine Effectivenessより。日本語はうさじまが追記。

この結果より、ワクチンの有効率*1は62%で「moderate」である、と結論づけています。また、この結果は速報ですので調査人数は少ないのですが、無作為化対照臨床試験の結果のメタ解析(複数の調査の結果を統合して解析する方法)の結果とほぼ一致しており、最終的な調査結果も大きく変わらないだろうとしています。


というわけで、「病気になっている人の内、3分の2が定期的にインフルエンザの予防接種を受けている」とか、「CDCはこの件に関する統計を一切、公開することを拒否している」とか「予防接種を受けた人を中心にインフルエンザが大流行」というのが、無根拠な話であることがわかります*2。なお、この話を元に、特定の食品等を勧めているサイトがありますが、虚偽の情報によりワクチンの有効性に疑問を持たせ、健康食品等を勧めるのは悪質な手法であると思います。

*1:ワクチンの有効率については第46回インフルエンザワクチンは効くのか?〜有効率の意味を知ろう, 鷲崎誠 参照

*2:Natural News掲載時にはまだこのレポートはWeb 上にも掲載されていなかった可能性がありますので、「デマ」というより「誤報」または「誤解」と言うべきかもしれません。