派遣26業務、いちばん時給が高いのは?
社団法人日本人材派遣協会が、毎年約1万人の派遣スタッフを対象に行なったアンケートの集計結果をウェブサイトに掲載しています。内容は、性別や年令などの基礎データから、時給や、派遣で働く理由、派遣法についてなど多岐にわたり、派遣労働者の実態がうかがえるものとなっています(ただし、Web上のアンケートに自主的に回答した人の集計ですので、なんらかの偏りはあるものと思われます)。その中からいくつかデータを抜粋して紹介します。
以下、出典はすべて「平成23年度派遣スタッフWebアンケート −1万人調査− (調査結果)」から(以下「資料」とします)。
- Q.3 現在(または直近)の業務
- (1)現在(または直近)、実際に働かれている主な業務の種類を次の中から 選択し、該当する数字に○をおつけ下さい。
- 実際に働いている業務をカテゴリー別に分類すると、「オフィス系」が 68.6%と最も多く、他のカテゴリーの「営業-販売・サービス」や「金融 系」「IT技術・通信系」などは数%となっている。 前年度と比べると、「オフィス系」の割合が減っている。業務の種類で分類すると、政令で定める26業務は「5号業務(事務用機器操作)」が37.6%と最も多く、次いで「11号業務(貿易、国内取引業務)」 6.7%、「10号業務(財務処理)」3.7%、「23号業務(OAインストラクター (ユーザーサポート・ヘルプデスクを含む)、その他IT技術・通信系業 務)」3.4%、「16号業務(受付・案内、駐車場管理等)」2.9%となっている。 政令で定める26業務以外の業務は、全体の30.8%、「オフィス・その他」 16.5%、「営業・販売・その他」が4.5%、「製造・軽作業」4.2%となっている。
(18ページ)
約7割の人が、派遣法に定める26業務の仕事をしていることがわかります。その中で最多の「5号業務」の事務用機器操作には、現在のオフィスで普通に使われているPC操作も入りますので、オフィスでの事務作業はほぼここに分類されていると思われます。
ではこの26業務で最も平均時給が高いのは、どの職種なのでしょうか。資料の表(27ページ)から、時給が高い方、低い方からそれぞれ5つを抜き出し、全体に占める割合(19ページ表)も記載しました*1。
全体の平均:1,363.6円
26業務の平均:1,420.7円
時給の高い業務
順位 | 職種 | 平均時給 (円) |
割合 (%) |
---|---|---|---|
1 | 【1号】ソフトウェア開発、 システム エンジニア・ プログラマー |
1,904.1 | 1.2 |
2 | 【6号】通訳・翻訳・速記 | 1,732.2 | 1.3 |
3 | 【25号】セールスエンジニアの営業、 資産運用提案業務、 証券営業 |
1,814.0 | 0.4 |
4 | 【WEBデザイン複合】WEBデザイ ン(19号or20号)、 CGデザイン(19 号or20号)、 【その他クリエイティ ブ業務】 |
1,632.3 | 1.5 |
5 | 【23号】OAインストラクター (ユーザーサポート・ヘルプデスクを含む)、 【その他IT技術・通信系業務】 |
1,601.3 | 3.4 |
時給の低い業務
順位 | 職種 | 平均時給 (円) |
割合 (%) |
---|---|---|---|
1 | 【14号】建築物清掃 | 980.0 | - |
2 | 【9号】市場調査 | 1,088.5 | 0.4 |
3 | 【13号】添乗 | 1,132.0 | 0.3 |
4 | 【16号】受付・案内、 駐車場管理等 |
1,201.4 | 2.9 |
5 | 【3、4、22、26号】放送関連業務 | 1,217.8 | 0.1 |
最も時給の低い「建築物清掃」と最も高い「ソフトウェア開発、SE、PG」では倍近くの差がありますね。想定年収(8時間x20日x12ヶ月)では、前者が1,881,600円、後者が3,655,872円となります。ただし、この「建築物清掃」は、全体に占める割合が示されていません。全回答数10,000程度のうち2人のみのようで、派遣では稀な業務なのか、Webアンケートに答えた人が極端に少なかったのかどちらかです。2件のみですので、この平均時給も、あてにならない可能性が高いです。
上記の業務は、全体に占める割合が低いものが多かったので、26業務以外も含め、割合が高い業務の平均時給をまとめてみました。同じく19ページ、27ページの表から。
職種 | 平均時給 (円) |
割合 (%) |
---|---|---|
【5号】OA事務、英文事務、 PCオペレーター、 金融事務、 ネットワーク構築、WEB作成 |
1,382.4 | 37.6 |
【オフィス・その他】データ入力(キー入力のみ)、 庶務事務(OA業務は含まず)、 その他オフィス業務 |
1,246.7 | 16.5 |
【11号】貿易・国際業務、 営業事務(国内取 引文書作成) |
1,448.6 | 6.7 |
【営業・その他サービス】その他営業・ 販売・ サービス |
1,215.8 | 4.5 |
【製造・軽作業】製造(ライン業務・生産管理 等)、 各種運転手、軽作業(会場設営・引越し等)、 倉庫内作業、 その他製造・軽作業業務 |
1,035.3 | 4.2 |
製造派遣の時給の低さが目につきます。平均で1035円、43%の人が「1000円以下」と答えています。
これらの時給はアンケートを開始した2007年度から年々低下していたのが、2010年度は事務系では持ちなおしてきていた(23ページ)とのことでしたが、今年は震災や円高の影響でどうなっているか、気になるところです。
次は、昇給について。
- (3)現在(または直近)の就業先において、働き始めてから昇給はありましたか?
- 「なかった」が72.6%、「あった」が27.4%となっている。 前年度と比べると、「あった」の割合はほぼ同様である。「現在(または直近)の就業先において通算した就業期間(Q2(9))(以下、 通算就業期間)」でみると、「2年以上」になると「昇給があった」率が、全 体の構成比率27.4%を上回っており、「2年以上3年未満」では33.4%、「3年 以上5年未満」では58.2%と上昇している。通算就業期間が長くなるほど昇給 を行う派遣元事業主が多くなる状況がうかがえる。
(29ページ)
う〜ん、正社員でも昇給がなかったりする昨今、なかなか難しいようです。
このアンケートでは、「派遣ではたらく理由(複数回答可)」も年齢や性別などで詳細に分類されています(8〜9ページ)。全体で最も多いのは「正社員として働ける就職先がなかったため」で43.7%。ですが、20代の男女、また30代以上の女性では「正社員として働ける就職先がなかったため」についで、「働く期間・時間を自分で決められるため」の割合も30〜40%と高くなっています。30代以上の男性では50%以上が「正社員として働ける就職先がなかったため」となっています。女性では、 「ライフスタイルが変わったため (結婚、子育て、定年等)」の割合も男性に比べて高くなっており、年齢と共に増えています。
最後に派遣法改正について、当の派遣労働者はどう思っているのでしょうか(45ページ)。
- (6)現在、労働者派遣法の改正(登録型派遣、製造業務派遣及び日雇派遣の原則禁止等)が行われようとしておりますが、賛成ですか、反対ですか? ※新規設問
- 「どちらともいえない」が46.7%と最も多く、次いで「反対」27.3%、「賛成」15.5%となっている。「どちらともいえない」と回答した者について、後述の「派遣で働いている ことへの満足度(P48 Q8)」における「派遣という働き方(システム)」との 関係をみると、現在の働き方に積極的に不満を持っていない回答者が7割強 となっている。
日本人材派遣協会では本アンケートについて
なにかとイメージで語られやすい派遣スタッフの実情を調べ、分析したデータを今後の派遣スタッフの
地位向上のために役立てていく予定です。
と述べています。
「派遣社員」と言うと、会社組織では脇役あるいはよそもののような扱いで、かと言って派遣元企業とのつながりは薄く、労働組合にも属さず、その「声」が聞かれることが少ない存在という気がします。このような資料の存在は貴重なものだと思います。
*1: ちなみに、わたしが現在従事している【17号】研究開発は割合が1.5%で平均時給1,442.6円。大学の仕事、企業の仕事で2つ山のある分布になっていそうです。