インフルエンザワクチン懐疑記事の訂正版と反論記事
- WHOはインフルエンザワクチン接種を推奨している, うさうさメモ
続報です。
- インフルエンザワクチン、WHO「感染予防効果は期待できない」 免疫悪化との研究も(魚拓), Business Journal
3月6日に改訂版が公開されました。しかし、記事の趣旨はほぼ変わっていません。また、WHOがインフルエンザワクチンを妊婦、子ども、高齢者、慢性疾患のある人などにたいして毎年接種することをはっきり推奨していることについては相変わらずスルーしています。
この更新の三日後、六本木博之(六分儀ヒロユキ)氏による、元記事に対する反論記事が掲載されました。
この記事について、六本木氏はtwitter上で以下のように発言されています。
相変わらず、「However among the elderly, influenza vaccine may be less effective…」を「感染予防の効果は期待できないが」と訳してるんですね。 http://t.co/mt0cVUWx4l @biz_journal
— 六分儀ヒロユキ@渋研X (@kaliuki) 2015, 3月 9
1月にBJに掲載されたワクチン否定記事に対して、急いで反論記事を書いてBJ編集部に送ったものが、1カ月半たってようやく掲載。なんかスゲエイマサラ感:「インフルエンザにウイルスワクチンは無意味」のウソ http://t.co/AqO6XNu8dm @biz_journalさんから
— 六分儀ヒロユキ@渋研X (@kaliuki) 2015, 3月 9
急いで反論書いたものの元記事が炎上して非公開、「追加取材して再度公開しますので、この記事の掲載もお待ちください」と言われて、気がつけば1カ月半。いつの間にかひっそり掲載されてました。その間に元記事が補足付きで再掲載されていて、こっちの記事が間抜けな印象にさせられた感も否めない。
— 六分儀ヒロユキ@渋研X (@kaliuki) 2015, 3月 9
それでも反対意見を表明する場があるということはいいことです。その点は有難いことだと思いますです。まあ、時は三月、花粉症の季節ではありますが。そして、こちらの記事を投稿した後で、元の記事が加筆訂正されてはいますが。
— 六分儀ヒロユキ@渋研X (@kaliuki) 2015, 3月 10
確かに、反論記事も掲載するだけ「まし」とも言えます。しかし、こういった論争の火付けをしたい人(エア論争クリエイター)にとっては、「議論の内容自体は難しそうだし興味もないけど、なんか言われてるらしいね〜」とか「よくわからないけど賛否両論あるっぽいから避けとくか」と思わせるだけでもかなりのメリットになると思われますので、複雑な気持ちです。また、往々にしてこうした反論記事の方がアクセスが少なかったりします*1。
医師・医療関係者はインフルエンザワクチンをどう見ているか
医師がインフルエンザワクチンについてどう見ているかを調べてみました。書籍やネット上の情報、またtwitterで頂いたお答えを載せておきます。
ブログ「NATROMの日記」で、「ニセ医学」について幅広く検証されているNATROM先生の著書から。
反ワクチン論者は、ワクチンは万能ではなく欠点もあると主張する。その通りだが、他のあらゆる医療行為と同様である。メリットとデメリットを比較して、メリットのほうが大きければワクチンには価値がある。
たとえば、インフルエンザワクチンについて考えよう。ワクチンでインフルエンザを完全に予防することはできない。ワクチンを打っていても、インフルエンザにかかることがある。インフルエンザワクチンは流行するウイルスのタイプを予想して作られるが、予想が必ずしも当たるとは限らないからだ。さらにインフルエンザワクチンを打つことで、きわめて稀ながら副作用が生じるかもしれない。たとえば、100万回接種あたり1〜2人はギラン・バレー症候群という筋力低下や麻痺、ときには死に至る神経の病気にかかる可能性があるとされている。
しかし、ワクチンを接種するかどうは、メリットとデメリットをよく考えて判断するべきだ。私は、毎年インフルエンザワクチンを接種している。医師であるため、流行シーズンにはインフルエンザに罹った患者さんと接触するし、私自身が感染すると患者さんにうつす危険性だってあるからだ。完全にインフルエンザを防ぐことができなくても、感染したり重症化するリスクを減らすことができれば、十分にメリットがある。「「ニセ医学」に騙されないために」p.55-56, NATROM
NATROM先生は、ブログの方でもインフルエンザワクチンの記事を書かれていました。
- 安保徹氏の反ワクチン論を信じてしまった衆議院議員, NTAROMの日記
また、神戸大学病院感染症内科診療科長、国際診療部長の岩田健太郎先生は著書「予防接種は『効く』のか?ワクチン嫌いを考える」の中で、インフルエンザワクチンに予防効果がないという根拠として頻繁に引用される「前橋レポート」を詳細に検討しています。前橋レポートが書かれた時代には統計学的に検討した妥当な臨床研究を行うことがまだ困難であったとし、現代の基準で見ればその妥当性には限界があるとした上で、「インフルエンザワクチンには集団的予防効果がある」ことを示した複数の論文(日本の小児の例もあります)を紹介されています。
では、近年になって、インフルエンザワクチンの予防価値についての研究があるのかというと、実はこれがあるのです。僕はインフルエンザワクチンについて、なぜ前橋レポートだけが特別に取り沙汰されて、後に出てきた新しい研究が無視されているのか、とても不思議です。
「予防接種は『効く』のか?ワクチン嫌いを考える」p177, 岩田健太郎
また、ワクチンに用いるウイルスの型予想の「当たり外れ」についても言及されています。
インフルエンザワクチンの「当たり年」「外れ年」がある、という個人的な経験をお持ちの方は多いようです。これはその年のインフルエンザの流行の状況にもよります。
しかし、1990年から2000年までの間、アメリカの高齢者を調べると、インフルエンザワクチンを接種された高齢者の方が、されない高齢者よりも、死亡率が低かったのです。1年たりとも外れ年はありません。程度の差こそありますが、インフルエンザワクチン「外れ年」はないのです(Nichol et al. NEJM 2007)。「予防接種は『効く』のか?ワクチン嫌いを考える」p179, 岩田健太郎
- 認知の歪み と インフルエンザワクチン話, 感染症診療の原則
- インフルエンザワクチン 2013年9月, 感染症診療の原則
- 誰が「判定」してるのか? インフルエンザワクチンニュースから, 感染症診療の原則
- インフルエンザワクチンは「打つべき!」か?, アピタル 感染症は国境を超えて
感染症の専門家が、「インフルエンザワクチンは効くのか」という問いについて、根拠を挙げながらわかりやすく解説されています。
以下はTwitterで医療関係者に方に「インフルエンザワクチン接種の是非をめぐっては、医学界でも大きく意見が分かれているといえよう。」という元記事の結論について妥当と思われるかどうかについて質問してみて頂いたお答えです。
@usausa1975 私の周囲では意見は分かれていません。周囲が産婦人科医のせいかもしれませんが。妊婦さんは重症化することもあるので、産婦人科医はインフルエンザワクチン接種推奨派が大半です。
— ドキ子@猫大好き (@dokikoYAMAYOKO) 2015, 3月 7
@usausa1975 「議論がある(1対99)」とかじゃないですかね。
「データをバイアスなく把握してる医師」の間であれば、効果に異論はないと思います。健康で自宅で過ごしてる高齢者なら、手間かけて金かけて接種するの?という議論は成り立つ?かな?
— simbelmynë (@simbelmyncom) 2015, 3月 7
「是非の議論」という設定自体がよくわかりません。職業上や健康上のハイリスク層は選択肢になりますし、いつでも休めるもともと元気な人と多忙な人も事情が違いますしね。違う主旨だったらすみません〜 RT @usausa1975 https://t.co/BO7RY2kgTX
— 堀 成美 (@narumita) 2015, 3月 7
上記の堀先生の言葉が象徴するように、「ワクチンの是非」は、状況により、メリット・デメリットのバランスで決まります。医師の方々も「誰に対しては」抜きでは語らない話です。素人が簡単に判断できる問題でも、陰謀論でざっくり語れる問題でもありません。繰り返しになりますが、ワクチン接種に関してはかかりつけのお医者さんに相談するしかないと思います。
*1:六本木博之氏の記事は広く読まれてほしいのですが、この論争が「炎上」して「アクセスが稼げる」となってしまうのは好ましくないわけです。