「それってマジ?」な科学・健康情報を見るときのチェックリスト(科学をあんまり勉強したくない人向け)
- 「ダメな科学」を見分けるための大まかな指針」のポスター, うさうさメモ
こちらのポスターはかなり広く拡散していただいたようで、ありがたい限りです。その一方、「難しい」という声も頂いております。それはある意味、予想通りというか、このポスターが難しいというよりも、現代の科学研究の内容を理解するために必要な基礎知識が、一般的に考えられているよりも多いってことだと思います。基本的には、科学研究の中身を「ちゃんと」知りたければ、このポスターにある用語や内容は、きちんと理解できなければダメなんです。かと言って、みんながみんな、人生の限りある時間を割いて、そこまで勉強するなんてのは不可能だとは思います。ですから、「おち研」さんの、この三か条は、「勉強するのはちょっと無理、だけどできるだけ騙されたくない」人にとってとても有用だなと思いました。
【「それらしい嘘」に騙されないため気をつけるべき三箇条】
1:専門家に聞く
2:素人集団による多数決は禁止
3:「わからない」と言う人の意見を重視する
特に、「疑問は知り合いの中で一番詳しそうな人に聞いて下さい。餅は餅屋に。」これは、可能であるならばいちばんいいと思います。最近ではTwitterなんかで、バリバリ第一線の専門家に直接質問できちゃうことなんかもありますからね(もちろん、いきなり喧嘩腰で問い詰めたりするのはやめたほうがいいと思いますが)。
とは言え、いつも誰かに聞くことができるとは限らないし、いちいち聞くのも面倒だったり、本格的な勉強は無理でも、ありがちな騙しのパターンは知っておきたいなという方もいらっしゃると思います。。そこで、今回は科学・健康情報でよく「ごまかして書かれがち」なところについて、リスト化してみました(一部、前回のポスターと被っているものあり)。
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- 画像はコピペ等で拡散していただいてもかまいませんが、かならず出典(この記事のURL)を明記願います。
このチェックリストはあくまで「気をつけたいポイント」を示したもので、これに抵触するから即アウトとかそういうものではありません。
以下、簡単な解説、参考とした記事などを紹介します。
1. そのタイトル、釣りや煽りじゃない?
「釣り」とは、誇張やウソを使って、人の気をひこうとすること。毎日記事が量産され、人を集めてナンボのウェブメディアでは釣りタイトルが横行しています。スポーツ新聞の見出しのようなものですね。新聞のネット記事でも、活字版のタイトルよりクリックを誘うような表現が使われていることもあります。扇情的なタイトル+URLのツイートを、リンク先を読まずにRTすると、誤情報を拡散してしまう恐れがあります。RTする前に、まず内容を確認しましょう。
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- リンクのアリ地獄状態?!釣り記事なタイトルとは?, 前田知洋の“タネも仕掛けもあるデザインハック” ― 第42回
- アンパンマンはアウトです、釣りタイトルはメディアの価値を下げる, 日本ジャーナリスト教育センター
2.根拠はある?
これは、ネットだけでなく、雑誌等でも気をつけたいことです。ネットならまず、「一次情報」(話の発端となった出どころ)を確認しましょう。出どころがよく分からない話は、創作の可能性もあります。ネットや雑誌の健康情報は、医療の知識のない人が、よく調べずに適当に書いていることも少なくありません。「出典ロンダリング」は、まとめブログなどの根拠の不確かな話を、海外の大衆ゴシップ紙が取り上げ、その記事が「海外でも報道されている」という「根拠」になってしまうことです。
3.英文=「ちゃんとした根拠」?
実は、米国は日本より反医療や陰謀論がさかんです。英語で書かれていると一見すごい難しくて賢い文章に見えますが、どっぷり陰謀論につかったサイトや反医療+サプリメントを商売にしている人が書いたものかも。URLのドメイン名(このブログだったら"ne"の部分)が「go」は政府系、「ac」は大学・専門学校、「int」は国際機関を表しますので、一つの目安になるかもしれません。
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- ドメイン名の種類, 日本ネットワークインフォメーションセンター
英語で書かれた「新聞」でも、英国の「ザ・サン」などは「タブロイド紙」と呼ばれ、大衆の好むゴシップを扱う新聞です。日本で言えばスポーツ新聞のような感じでしょうか。
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- イギリス風物録 新聞, Days in the UK あたしの見たイギリス
4.複雑な問題を言い切ってない?
アトピー、発達障害、不妊症、自閉症、うつ病etc. 近年、「増えている」と言われて色々研究されているけど、イマイチはっきり原因や予防法が分からなかったり、複雑な要因があって簡単な解決法が見つかっていないものがあります。こういったものに対して、同じように近年増加しているものや使われ始めたもの(例えば、スマホの利用、電子レンジ、牛乳、白砂糖、食品添加物、生理用品…、言ってしまえば自分がdisりたいもの)を持ってきて、「○○の原因は××だった」と言い切ってしまうことがあります。しかし、これらはたまたま同時期に増えたとか、その背景に共通の原因がある(例えば『近代化』)だけかもしれません。その場合、○○をやめても、××は予防できません。○○が自分の好きなものや便利なものだったら、やめ損ですし、○○をやめることで逆に健康に悪かったりしたら最悪です。さらに、「××の原因は○○!しかし、▲▲を使えば、大丈夫!」とマッチポンプな商売をしている人もいます。7番も参照。
また、この手の話によく出てくるがんについては
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- 結局日本のがんは増えているのか?, うさうさメモ
で調べていますが、その主な原因は高齢化であることが統計から明らかです。
5. 「分からないことが多い」=「なんでもあり」?
科学研究は、地道に一個一個石を積んで、城壁を築くようなもの。一つの研究で分かることには限界がありますが、異なる条件での実験・調査を繰り返して少しずつ「確かに言える」部分を増やしていきます。実は、「どこまで、どの程度わかっているといえるのか」は科学研究を進めるにおいて重要な点で、論文の初めの方には「今までの研究でこういうことがわかっている。しかしこれは分かっていない。そこで今回これを調べた」ということが書かれています。ところがたまに、「しかし、○○についてはよく分かっていなことも多い」の一言で、「ここまでにわかっていること」もすべてちゃぶ台返しできると考える人がいます。もちろん、新発見でそれまでの定説が覆されることもありますが、それにはよっぽどの証拠が必要ですし、それまでの一つ一つのデータの妥当性がそれでチャラになるわけではありません。
6. どんな立場で書かれてる?
製薬会社のCMやサイトを見るときには、明らかに宣伝なので、警戒する人も多いと思います。しかし、一見、「製薬会社の利権を告発する正義の人」のようで、代替医療のクリニックをやっていたり、反医療本、サプリメント等を売っている人もいます。書店では、売れている本の上位によく反医療本がランクインしています。また、常に主流に対して逆張りすることを仕事(?)にしている人もいます。さらに、標準医療や医療従事者に対して敵対心や憎しみを抱いている人もいます。事情は様々で、同情すべき点がある場合もありますが、極端にバイアスのかかった情報発信には警戒が必要です。
7.脅してない?
あるリスクを誇張し、「とにかくこれを避けなければ」と人を「慌てさせる」手法があります。慌てると判断力が低下して、行動を簡単にコントロールされてしまいます。そこで、「これを使っておけば安心ですよ」と言われると、飛びついてしまいますよね。また、ちゃんとした証拠がなくても、「これは怖いものだ」と何度も言われると、呪いのように作用して選択肢が狭められてしまい、もったいないし、社会全体としても損と言えます。
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- 「酵素は健康にいい」のウソ, 有路昌彦
- 健康情報と脅し, うさうさメモ
8.「白か黒か」になっちゃってない?
リスクも効果も「あるかないか」で考えると、非現実的な思考になってしまいます。世の中の多くのものが、「いい面」と「悪い面」の両方を持っているからです。これらを「どのくらいいいのか」「どのくらい悪いのか」という「量」を考えることで、「現実的に考えて、どっちが得か」を考えられるようになります。
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- リスクや効果は量と合わせて考える, 有路昌彦
- 保存料の安全性, 上野製薬株式会社
9. 分母は?
「量」と同様、大切なのが、「割合」です。薬Aで、重篤な副作用が10人、薬Bでは100人出ました。では、薬Bのほうが10倍危険でしょうか?もし、薬Aを飲んだのは500人、薬Bを飲んだのは1万人だったらどうでしょう。Aでは10÷500=0.02、つまり飲んだ人の2%、Bでは100÷10000=0.01、つまり飲んだ人の1%で副作用がでたことになり、Aの方が副作用の出る割合は高くなるのです。
- 分母分子 と その周辺, 感染症診療の原則
10. メリットだけ、デメリットだけを考えてない?
副作用の可能性を無視した薬のプロモーションも問題ですが、薬の本来の効果によるメリットを無視して「副作用がある=悪」のように扱うのも問題です。また、薬の性質のある一面のみに着目して「これはよい」「これはダメ」など、簡単に言い切っていまう情報にも注意。薬は、本質的に、「デメリット(副作用)もあるけれども、そのリスクを考えても、病気を放置するより薬を飲んだほうがメリットが大きい時に使う」ものです。どちらかだけに注目していいては、正しい判断はできないのです。
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- 「薬のプロ」に聞く、「添付文書」との付き合い方, うさうさメモ
11. 「なんちゃって両論併記」してない?
「両論併記」というと、なんとなく公平そうに思えるのですが、実際には「専門家の99.9%がAだと考えている。Aだという証拠はこれまでにたくさんある」ということがらに対して、ごく一部(時には、数名の非専門家)の「私はBだと考える(特に根拠となる証拠はないが…)」という意見を「併記」することで、まるで50:50で信ぴょう性があるように見えてしまうことがあります。科学的なことがらについての意見は、証拠の確かさに基づいて重み付けしなければなりません。
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- 子宮頸がんワクチンをめぐるあれこれ(その4), くねくね科学探検日記
- 両論併記は公平なのか, 村上徹
12. 本当に「専門家」?
テレビや雑誌で「専門家」として語っている人にも、怪しげな人は少なくありません。医師免許は持っていても、病院で医師として働いたことがほとんどなく、独自理論の代替医療を行っていたり、○○ジャーナリストを名乗っていてもその分野のちゃんとした知識を持っていなかったり、研究者と言いながら、まともな論文をぜんぜん出していなかったり。「××アドバイザー」など、適当な「身分」を名乗って、まったく科学的裏付けのない独自の理論を「専門家」として語りまくる人までいます。また、何かの専門家であっても、その発言に常に学問的裏付けがあるとは限りません。自分の専門外のことについては適当な発言をしてしまう人もいます。メディアは、自分たちの考えたストーリーに「権威付け」してくる「専門家」を探していて、その人が信頼できるかどうかに無頓着なことがあります。こういった「自称専門家」の話よりも、身近にいる医療のプロ=かかりつけ医が、今の自分の状態を把握した上でしてくれるアドバイスのほうが、きっとためになると思います。また、極端なことを言って注目を浴びようとする「自称専門家」の意見には、ネット上などで「普通にその分野で働いているプロ」達が反発していて、その反論を見るとなるほどその通りだな、ということもあります。
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13.へんな「実験」「研究」してない?
サプリメントの紹介や美容記事、TV番組でよく見かける、「なんちゃって実験」。代表的なのは、「比較をしない実験」です。サプリメントAの効果を知りたければ、ある人がAを飲む前と後の比較では不十分で、Aを飲んだ人達と飲んでない人達(それ以外の食事や運動量は同じ)の比較をし、さらに統計的に評価する必要があります。そうでなければ、Aの効果なのか、偶然なのか、食事や運動の効果なのかがはっきりしないからです。また、Aを飲んで痩せた人だけをピックアップして(○○人中××人が痩せた!)とやってしまうこともあります。実はそれ以外に「Aを飲んだけど痩せなかった」人が痩せた人の何倍もいるかも知れません。別の例では、でんぷんを分解する酵素でどろどろの液(葛などのでんぷんによる粘り)がサラサラに→デンプンを分解するので健康にいい!という実験は、ビーカーの中で酵素がでんぷんを分解する作用があるとして、それが体内で同じように働くのか、さらに本当に健康にいいのかという、証明すべきステップをすっ飛ばしています。
14. その根拠は科学的?
「科学的に証明された」という言葉が使われることがありますが、本当に「科学的」な手続きを踏んでいるでしょうか?以下の記事が「科学的」な健康情報の見方を知るのに役立ちます。
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- 情報の的確な捉え方、整理の仕方について, 東北大学大学院 助教授 坪野 吉孝
15. 論文の信ぴょう性は?
薬や治療法についての研究に基づく根拠を「エビデンス」と言い、その研究手法の確かさによりレベル分けされています。エビデンスレベルが高いほど、信頼できる研究結果があると言えます。
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- 「エビデンスがある」とはどういうことか?, 看護ネット
また、論文は、後に不正が見つかった場合などに撤回されることがあります。例えば「MMRワクチンと自閉症に関連がある」とした論文は撤回されています。
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- MMRワクチンと自閉症の関連を主張したランセット論文が完全に消えました。, お父さんの[そらまめ式]自閉症療育
撤回されなくても、いったん「こうかもしれない」という考えられたが、その後の研究でそれが否定された古い仮説だとか、現代の目で見ると研究手法に難のある論文というのもあります。インフルエンザワクチンの「前橋レポート」などがその例です。
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- インフルエンザワクチンは効くの?, 川本眼科だより
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論文が一報出て、それで証明完了、というわけではなく、別々の研究でなんども「この現象は確かにある」と確かめられることで徐々に信ぴょう性が高まっていくのです。
最後に、怪しい科学・健康情報について、もっと知りたい方にはこの本をオススメしておきます。長年、この分野のブログを書かれてきたお医者さんの本で、分かりやすいです。
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今回も、Twitter経由で多くの方にご助言頂きました。ありがとうございました!!