小学生に配られた「がんのおはなし」について郡山市保健所に問い合わせてみた

福島県郡山市が配布している「最大の国民病がんのおはなし」というチラシに批判が集まっている。このチラシは小学生に配られたものだが、クラスの2人に1人はガンになるという警鐘を鳴らしたチラシである。いったいどのような意図でくばられたものかは定かではないが、案の定「原発事故」の影響ではなく「国民病」のためにガンになるという事を植え付けさせようとしていると批判されている。


(略)


投稿者はこのチラシに関して「狂っている」「小学生に渡すのはおかしい」と批判している。確かにこのチラシを渡された小学生は「だからどうしろというのか」と迷ってしまいそうだ。ガンになる可能性があるから防ぐ手立てをとるのか、それとも「ガンになる」という知識だけをすりこませればよいのか。

郡山市の根本的な意図が全く持って不明なチラシである。


―目的は何であるのか。

さてこのチラシの最大の目的は何か。チラシによると「死亡数は約126万人。このうちガンによる死亡者数は約36万人、日本人の3人に一人はガンで亡くなっている」と警鐘を鳴らす。また将来2人に1人はガンになるということだ。統計的にそのような物になりますという事だけであれば、別にこのようなチラシを作る必要はない。だが、チラシを作る以上、なにか目的を持って配布しているはずだ。

一つ考えられることは「ガン」は国民病であり、原発事故が原因ではないという事を植え付けさせようとしていることではないかということだ。つまり将来ガンになるのは「原発事故」という意識を子供たちから遠ざけようとしているのではないかという事だ。


元記事には、写真が掲載されています。たしかにこれだけだとよく意図がわかりませんが、これ、なんとなくよくある啓発冊子の表紙のような雰囲気では、と思い、郡山市役所のHPを調べてみると、こんなページが。

がん撲滅都市宣言(昭和60年9月13日議決)

 わが国の平均寿命は、急速な伸びを示し、世界一の長寿国となった。
 このような中で、医学の飛躍的な進歩にもかかわらず、がんによる死亡率は、急激に上昇している現状にあり、郡山市もその例外ではない。
 このがん撲滅には、日常の健康管理と早期発見、早期治療が第一であると言われている。
 このようなことから郡山市は、がんによる死亡者を絶滅するため検診体制の充実を図り、これを強力に推進するがん撲滅都市であることを宣言する。


おお、これはなんとなく関係ありそうだ、と、郡山市保健所地域保健課の連絡先にメールで質問してみましたところ、すぐに丁寧なご回答を頂きました。郡山市民でもないのに、ありがとうございます。

1 ネット上にあるものはチラシか冊子の表紙か
冊子の表紙です。


2 冊子の内容と目的
<内容> 
・がん細胞のできかた
 ・がんのできる部位
 ・がんの治療
 ・命の大切さと検診の大切さ
 ・がんの予防
 

<目的>

  1. がんについての知識の理解
  2. 子どものころからがんを予防する生活習慣を身につけること。
  3. がん検診の大切さを考える機会の提供


3 冊子の配布開始
平成22年11月


4 がん撲滅都市宣言との関連
がんが、昭和56年から死亡原因の第1位になったことを受け、本市においては、がんによる死亡率を下げることは重要と考え、昭和60年9月に「がん撲滅都市宣言」を行い、がん検診の受診率向上など、がんの予防・早期発見の取り組みを推進して参りました。
国においても従来から様々な取り組みを行って参りましたが、平成19年6月に策定した「がん対策推進基本計画」に基づき、がん対策を推進しているところであり、さらに平成24年度には計画の一部見直しがされ、「がん患者を含む国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんに負けることがない社会」を目指すこととなっております。
今回の冊子配布も、これらの取り組みの一つとして実施をしたものであります。

(回答メールの添付書類より転載)

ご担当の方も、平成22年より配布していたものだったので、正直戸惑っています とのことでした。


質問したらすぐに教えてもらえることを「意図が全く持って不明」という意味が不明です。チラシではなく冊子ですから続きもありますし、「どうしろというのか」の部分は中に書いてあるわけで、興味を引くためにこのような表紙になっているのでしょう。原発事故前から配っていたのに、原発事故の影響をごまかすためにこういう風に書いてるんだろ!というのはあまりにも無理があります*1


「がん」に対して過敏になっている人がいるのもわかりますが、二人に一人ががんになるとか三人に一人ががんで死ぬとかいうのは、昔からよく言われていることです(厚生労働省政策レポート*2。これを小学生に教えるのがおかしい、とは思いません(とは言え、がんやがん検診に対してまだ実感がわかないであろう年齢の子どもに啓発して、効果があるのかどうか疑問、という気もしますが、そこで実感を持たせるためにあのような表紙にし、子どものころからがんを予防する生活習慣を身につけさせようというのでしょう)。


2013.11.12追記
冊子の配布が平成22(2010)年に開始された、ということであり、元記事の写真自体が古い冊子だという指摘ではありません(最近配られたものかもしれません)。


2013.11.14追記
元記事のリンクからいらした方へ
うさじまは、この元記事の「報道」姿勢には非常に疑問を感じております。そちらのサイトに「協力」するつもりは一切ございません。私がこの記事を書いたのは、事実に基づかない曲解による煽りに憤りを感じたからと、煽りにより郡山市保健所のがん予防への取り組みが妨げられることを危惧したからです。

*1:逆に言えば、昔興味がなくて、原発事故に絡めてしか考えられない人にとっては信じがたいことであっても、そういう言説はなにも「原発事故の影響をごまかすため」とかでなく、以前から言っていたことだ、ということの証拠みたいなもんです。

*2:二人に一人よりは少しすくなそうですが…