2013.8.24葛西臨海水族園講演会「All about TAKO──タコのこと知っている?」
行ってきました。
「メンダコ展示への挑戦」/小味 亮介(葛西臨海水族園飼育展示係)
小味さんは、若くてステキな水族館職員さん。入社4年目、大学でタコを研究し動物の中で一番タコが好きになったそう。去年までは調査係という生物の収集を行う部署にいて、今年から飼育展示係をされているそうです。
メンダコ
- メンダコは水深200−600mに住む深海性のタコ。
- 深海性だからスミははかない。ろうと自体はあるけど、そこから水を吹いて泳がない。
- 耳みたいに見えるものは肉ヒレで、軟骨が入っていて、泳ぐときにこれを振り回す。着底時にはピンと立てた感じになる。
- 体は寒天質で柔らかく、扁平形。
- 普通のタコは吸盤が2列だけど、メンダコは一列。
葛西臨海水族館におけるメンダコ採集、展示
メンダコ採集・輸送・展示の困難と解決のための工夫
- 体が寒天質で柔らかく、網の中でダメージを受けてしまう。ボロボロになってしまうことも→漁師さんにお願いして、曳網時間を短くする。
- 水温差・空気にさらされることによるダメージ→氷を張ったバットを用意しておいてそこに受ける。水を張ったバット内で、魚の選別をする。
- 圧力差によるダメージ→秘密兵器・圧力水槽。圧力水槽は2月の深海ラボで実物を見ることができました!ここに入れられたメンダコは、小味さんいわく「落ち着いているように見える」そうです。
- 光によるダメージ→一個体ずつビニールに入れてさらに黒いビニール袋に入れ、それをクーラーボックスに入れて輸送する。
飼育記録
ROVによる採集
- JAMSTECの無人探査機「かいこう7000II」での海底調査に同行。深海の底にタコらしきすがたが…「タコみたいですけどどうします?」との言葉に思わず「採って下さい」と、小味さん。
- かいこう7000IIには「スラープガン」という掃除機みたいな吸込み口が付いている。これで吸ってもらった。(一瞬で吸われるメンダコに、会場から歓声が…)
- 圧力水槽に移して3日間、圧力下での水の入れ替え時には泳ぐような行動を見せ、それ以外は「落ち着いていた」。
- しかし、調査日程の都合で圧力水槽から取り出して水族館に輸送することに…。
- 水族館に到着して2日後に死んでしまった。もしあのまま圧力水槽で飼うことができていたらどうなったか…
今後の課題
- メンダコに関しては、わからないことだらけ。水圧が一度でもなくなるとだめなのか、採集地から遠いゆえの長時間輸送がダメなのか、採集時のダメージか…
- これまでの採集・輸送方で効果があったのがなんなのか検討し、さらなる長期飼育を目指す。
メンダコさんのカワイイ写真には会場から歓声が上がっていました。ぜひぜひ、葛西でメンダコさんに「いつでも会える」日が来るのを心待ちにしています!
Q&A
Q: 餌は?
A:餌は何を食べているかまだ分かってない。解剖した時、胃の中にはヨコエビの脚などが見つかったけど、それがメインの食事なのかどうかはわからない。検討課題の一つ。20日間飼ったときは餌食べなかった。
Q: スラープガンでの採集時、いったん常圧になるの?
A:一旦常圧になる。
Q: 常圧になったときに形態上変化が見られる?
A: 軟体であり、気泡などもない。解剖して色々探してみたが、変化はわからなかった。そもそも比較できる写真も少ない。
Q: そこまでしてメンダコを展示したいというモチベーション、目的はなに?
A: 展示しようとする試みのなかでメンダコが死んでしまうのは悲しいところもある。でも、横から見たメンダコの写真をみんながカワイイと言ってくれたように、メンダコはとてもおもしろい生き物。もっと多くの人に伝えたいと思う。
葛西臨海水族園では、平成元年の開館以来、飼育が困難な生物(クロマグロ、サンゴなど)の飼育にとりくみ、成果を上げてきたそうです。深海生物、特に深海サメとタコについても力を入れておられるそうです。今後に期待!ですね。
「タコのこと知っている?」/奥谷 喬司 氏(東京水産大学(現東京海洋大学)名誉教授)
1931年生、世界でも有数の軟体動物学者で、一般向けの本もたくさん執筆されている奥谷先生のタコのお話。奥谷先生は、タコだけでなくイカも贔屓にされている(?)ためか、しばしばイカのお話になることも…。お話は盛りだくさんでしたので、うさじまの印象に残っているところをダイジェストで。
イカスミとタコスミの違い
タコとイカの吸盤の違い
タコの巣
- タコは岩の奥などに巣穴を作り、昼間はそこにいて部屋の掃除などをしている。
- メスは卵を産むと巣穴の中で卵を房状に編んで、新鮮な水を送ったりして世話をする。その間、のまず(?)食わず。イカは産んだら産みっぱなし。
タコとイカの色
珍しいタコ
- カイダコ
YouTubeに動画がありました。これは、貝殻ではなくて自分で殻を作り、浮遊しながらその中で生活するタコだそうです。卵もその中で育てます。オスは小さくて殻は作らないそうです。
- フクロダコ
これも浮遊するタコ。
いい画像がなかったので、うさじまがスライドを模写した画を載せておきますw
うでの方の、点線で囲ったところに卵を抱えているそうです。
- ムラサキダコ
マントが…。これも浮遊するタコ。
ムラサキダコ, へんないきもの
- アミダコ
オオサルパというホヤの仲間の体内に入っていることがあるそうです。
タコ図鑑013:アミダコ, ウェブヒトデ
オオサルパに宿るアミダコの特異な生態, 貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology 45(1), 67-69, 1986-03-31 (奥谷先生の論文です)
- ジュウモンジダコ
ダンボのような耳がとってもかわいい、深海性のタコです。メンダコの仲間らしい。
しんかい2000のジュウモンジダコ動画, JAMSTEC
Q&A
Q.ヒョウモンダコの毒に注意、と言うニュースを見た。茅ヶ崎のヒョウモンダコにも毒があるのか。毒は何からとっているのか。
A.「ヒョウモンダコ」と言っても実は3つの種をいっしょにしてそう呼んでいる。毒の分析も分けてやっていない。日本にはそのうちの2種がいる。伊豆や房総のヒョウモンダコについて毒をきちんと分析したわけではないが、たぶんある。海外では、噛まれて子どもが死んだり、大人では腕が壊死した例がある。ヒョウモンダコの毒はテトロドトキシン*1だとわかっている。食べても当たるかもしれないが、実験データはない。由来については、自前で作れるようなものではない。フグはヒトデなどを経て体内に蓄積している。ヒョウモンダコの毒の由来は分かっていない。
Q.タコの視覚、嗅覚、聴覚について
A.その点については英国人が非常に熱心に研究している。吸盤にはケモセンサー(化学物質を検知する細胞)がある。触感もわかる。フタがしまったビンの中にカニが入っていると開けて食べるという実験結果から、視覚も発達していると考えられる。図形もある程度分かる。明るい/暗い、白/黒はわかるが、赤/緑は分からない。迷路を学習で憶える。
Q.卵の中のタコの赤ちゃんの模様が一匹ずつ異なっていた。いつから色素胞を操れるようになるのか。
A.タコらしい形になった時には色素胞はできている。卵をつついたり、光を当てると色が変わる。しかし、色の変わり方はまだヘタな感じ。赤ちゃんの時の色素胞の配列は種によって固有。今はDNAにより種の同定ができるが、この配列の情報が同定に重要。
Q.特に贔屓にしているタコは?
A.みんな贔屓してる。…けど、今「何とかしたい」と思っているのはジュウモンジダコ。メンダコ同様、寒天質の体を持つ柔らかい深海性のタコ。なかなか捕獲されないし、ズルズルになってしまう。あんなにかわいかったのに…と感じる。
Q.タコはなぜゆでて出荷するの?
A.生だと固すぎるから。ゲソなんてどうにもならないほど固い。繊維の固さ。
Q.タコの好きなところは?
A.生きている時の姿の美しさ。機能的な運動のしかた。見ているとやめられない。
奥谷先生のお話で印象に残ったのは、タコの胃の内容物(タコは食べ物をすりつぶしてから飲み込むため、胃の内容物が何かを調べるのはとてもむずかしいそうです)や、種の同定に関して、「今の人はなんでもDNAでやってしまう。けど、DNAだけ見てもダメ。形の上での認識、人間の五感を使った認識は大切です」とおっしゃっていたことです。確かに、DNA配列を手軽に読めるようになって、生物学の世界は様変わりしました。しかし、基本はやはり「観察」なのですよね。
水族園の方は見て回る余裕がなかったのが残念ですが、講演会の前に観覧車に乗りました。千葉側の風景と東京側の風景の違いが面白かった。スカイツリーもよく見えました。葛西臨海公園の浜辺と干潟も。
*1:フグが持っている毒。