HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)の名称が引き起こす情報ラグ

先日、以下のようなつぶやきをしました。

昨日検索してみたんだけど「子宮頸がんワクチン」で出てくるのはデマとメーカー、行政の接種補助の情報。「HPVワクチン」では、上記の情報に加え専門家による解説も上位に。「子宮頸がんワクチン」というオフィシャル名と、世界標準の「HPV vaccine」との乖離があるからこうなる

これは一部間違っていて、厚生労働省やメーカーが用いているオフィシャル名称は「子宮頸がん予防ワクチン」でした。お詫びして訂正します。


で、本題なのですが、普通ワクチンの名称というのは「感染予防できる病原体名」か「予防できる疾病の名前」+「ワクチン」なんですよね。日本ワクチン産業協会の「国内で販売されているワクチン等と取り扱い会社(平成23年11月現在)」を見ていただければ分かると思います。この中で、HPVワクチンは「子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)」となっております。なぜこんな書き方をしているかというと、たぶん国際的なスタンダード、または学術的にはHPVワクチンは「HPVワクチン」と呼ばれているから、だと思います。googleで、「"cercvical cancer vaccine"」で検索すると391,000件ですが「HPV vaccine"」で検索すると4,680,000 件ですし、CDCの米国ワクチン一覧でも「HPV vaccine」のみが記載されています。これは当然といえば当然で、HPVは子宮頸がん以外の病気(尖圭コンジローマや肛門がん等)の原因でもありますし、ガーダシル(4価HPVワクチン)の効能または効果にはちゃんと尖圭コンジローマの予防も含まれています。ところがなぜか、厚生労働省やメーカーは「子宮頸がん予防ワクチン」という言葉を使っています。 で、一般的には「子宮頸がんワクチン」と呼ばれることが多いようです。また、「子宮頸がんの予防接種」という言葉も使われているようです。


実はこの、お役所の正式名称と、学術的に使われている言葉のずれにより、google検索した際に困ったことが起こっているのです。「子宮頸がんワクチン」「子宮頸がん 予防接種」「HPVワクチン」それぞれで検索した場合の上位30サイト(検索で出る3ページ目まで)を以下にまとめてみました(2012年3月31日現在)*1


検索語「子宮頸がんワクチン」

順位 記事タイトル 内容
1 しきゅうのお知らせ GSK(サーバリックスを製造販売)のサイト
2 子宮頸がんワクチンの危険性 デマ
3 警告!子宮頸がんワクチンの接種は危険 デマ
4 子宮頸がんワクチン - Wikipedia 百科事典
5 ワクチン接種緊急促進事業について 厚労省の、pdfファイルが
並んでいるページ
6 子宮頸がんワクチン怖過ぎワロタ
wwwwwwwwwwwwwwww
デマ(2ちゃんねるまとめ)
7 きくちゆみのブログとポッドキャスト デマ
8 子宮頸がん予防情報サイト
もっと守ろう.jp
MSD(ガーダシルを製造販売)のサイト
9 子宮頸がん予防ワクチン接種費用の
助成制度について
神戸市の助成案内
10 子宮頸がん予防ワクチンのご案内 病院のサイト。解説あり
11〜30 デマ 5
自治体の助成案内 9
解説・デマ批判 4
その他 2

検索語「子宮頸がん 予防接種」

順位 記事タイトル 内容
1 しきゅうのお知らせ GSK(サーバリックスを製造販売)のサイト
2 子宮頸がんワクチンの危険性 デマ
3 警告!子宮頸がんワクチンの接種は危険 デマ
4 ワクチン接種緊急促進事業について 厚労省の、pdfファイルが
並んでいるページ
5 子宮頸がん予防ワクチンのご案内 病院のサイト。解説あり
6 子宮頸がんワクチン - Wikipedia 百科事典
7 きくちゆみのブログとポッドキャスト デマ
8 子宮頸がん予防情報サイト
もっと守ろう.jp
MSD(ガーダシルを製造販売)のサイト
9 子宮頸がんワクチン怖過ぎワロタwwwwwwwwwwwwwwww デマ(2ちゃんねるまとめ)
10 子宮頸がん予防ワクチン接種費用の
助成制度について
神戸市の助成案内
11〜30 デマ 5
自治体の助成案内 12
解説・デマ批判 2
その他 1

検索語「HPVワクチン」

順位 記事タイトル 内容
1 HPVワクチンを巡る米政治家の発言 陰謀論をめぐる考察
(個人ブログ)
2 ヒトパピローマウイルス(HPV)
ワクチンについて
ワクチン開発者の紹介記事
(個人ブログ)
3 著名科学者が警告するHPVワクチンの危険性 デマ
4 子宮頸がんワクチン接種事業 横浜市の助成案内
5 ヒトパピローマウイルス(HPV)
ワクチンに関する…
HPVワクチンに関する
ファクトシート
6 HPVワクチン 病院の解説サイト
7 HPVワクチンの有効性と限界 専門誌掲載の論文の紹介
8 子宮頸がんとヒトパピローマウイルス(HPV) 病院の解説サイト
9 HPVワクチン接種後に13歳女児が死亡 ワクチン反対(陰謀寄り)
10 木村盛世のメディカル・ジオポリティクス カフェ ワクチン反対
11〜30 デマ 0
自治体の助成案内 3
解説・デマ批判 8
その他 9(病院の接種案内等)

このように、「子宮頸がんワクチン」「子宮頸がん 予防接種」では自治体からの助成の情報と、メーカーサイト、後はデマの嵐です。2ちゃんねるまとめブログの「子宮頸がんワクチン怖過ぎワロタwwwwwwwwwwwwwwww」のクローンが複数回登場するのも困ったものです。逆に、専門家による解説や、学術誌(和文)の記事などでは「HPVワクチン」という用語が使われているために、多くの人が検索に用いるであろう「子宮頸がんワクチン」等の検索語では、少なくとも上位にはヒットしなくなっています。


こんな状態だと、「子宮頸がんワクチン」や「子宮頸がん 予防接種」で検索した人は、メーカーや行政による接種推進情報と、非常に怪しいデマ情報が入り乱れる検索結果を目の前に、「どちらを信じていいか分かんない…(涙)」とならざるを得ません。両極の情報を元に判断を迫られる保護者に必要な、専門家による解説や、デマを検証して「えー、疑わしいけどほんとなの…?」に答えてくれる記事が、言葉の問題によって遠ざけられているのです(これを逆手にとれば「HPVワクチン」の語を使えば、比較的まともな情報がヒットしやすい…とも言えるかもしれませんが、その言葉を知らなければどうしようもありません)。


こういったことを避けるためにも、厚生労働省などがオフィシャルな情報として、Q&Aのようなわかりやすい形で、デマ(流言)に対するカウンター情報を発信していく必要があるのではないかと思います。そしてもちろん、この情報はアクセスしやすい場所においてもらわなければ困ります。これは、「子宮頚がん予防ワクチン」という奇妙な語を採用したものの責任でもあるのではないでしょうか(笑)*2

*1:「完全なデマ」と(あるていどの)根拠のあるHPVワクチン反対論を分けています。「解説」には開業医による解説、論文、メディア記事、解説目的の個人ブログを含みます。病院のサイトで、解説より接種案内が主なものは「その他」に。

*2:現状、デマによる接種忌避がどの程度あるのかはわかりませんが…。