HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)のよくある「疑惑」について

注意!この記事は「子宮頸がんワクチン接種を推進/否定」するものではありません。ネットで流布されている嘘を嘘だと指摘している記事の紹介です。すべてのワクチンには、副反応と限界があります。そして多くの場合、それを上回るメリットがあります。ワクチンの有効性、安全性については主治医の先生によく相談してご判断ください。

上記のまとめブログで取り上げられている「疑惑」はとっくにデマだということが分かっているものがほとんどです。けれども、この手のデマの宿命とでもいいましょうか、ゾンビのように何度も何度も蘇り、ネットの世界をさまよい続けているのです。このゾンビを見て不安になってしまった人のために、今一度、これらのデマに関する検証記事をまとめて貼っておきます。

HPVワクチンで不妊になるの

なりません。HPVワクチンで不妊になるというのは、「動物用避妊ワクチンと同じ成分が入っているから」というのが根拠のようです。しかし、同一成分というのは「アジュバント」というワクチンの効果をアップさせるために補助的に入れる成分のことであり、避妊効果とは直接関係のないものです。スクリュードライバーと同じ成分が入っているからオレンジジュースを飲んだら酔っ払う!と言うような無茶な話です。また、これまでにHPVワクチンの接種が妊娠、出産に影響を及ぼしたというデータはありません。

2013.3.5追記

HPVワクチンは「劇薬」なんでしょ?そんな危険なものを子供に打つなんて…

じつは、「ワクチン類」はすべて「劇薬」に指定されているのです。HPVワクチンが特別ではありません。では、ワクチンはすべてとてつもなく危険なんでしょうか?
そもそも劇薬ってなんなんでしょう?劇薬と言うと、一般的な言葉としてはなんとなく「飲んだら大変なことになる薬」のようなイメージがある気がします。しかし、薬事法に定められる劇薬とはこういうものです。ざっくり言うと、「決められた量以上に摂取すると危険が大きい薬」や「安全に使用できる量の幅がやや狭い薬」で、「薬事法施行規則別表第3」に指定されています。ワクチンは、「ワクチン類」として記載されています*1。劇薬というのは、薬局や医療機関で適切な管理が行われるように定められた区分であり、わたしたち一般の使用者が気をつけるべきなのは、医師の指示通りに使用するということくらいでしょう(使用後の副反応の兆候に気をつけることも含めて)。ワクチンを勝手に入手して大量に接種してしまうことはありえないのですから、必要以上に恐れる必要はありません。

サーバリックス接種後に死者が続出してるんでしょ?

いいえ。インドの臨床試験で多くの死者が…というのは誤報です。→サーバリックスは危険なのか? > インドで子宮頸がん予防ワクチンで大量の死者が出たって聞いたけど?
薬事日報の記事(2011年9月)によれば、国内のサーバリックス累計接種者は238万人、累計接種回数は350万回で、1名が接種後に亡くなっていますが、この方は突然死のリスクが高い心室頻脈発作の基礎疾患を持っており、「ワクチンとの明確な因果関係は認められない」とされています。世界では、07年のオーストラリアを皮切りに114カ国以上で承認されており、出荷量は2278万回分程度。日本を除く接種後死亡例は、イギリスとインドで各2人の合計4人が報告されているが、いずれもワクチンとの直接の明確な因果関係はないとされているそうです。「薬事日報」2011年9月14日
たくさんの人に接種すれば、「偶然その後に亡くなる」例もでてきてしまいます。サーバリックスは、世界中で何千万回も接種されていますが、今のところ、ワクチンによる直接の死亡例は確認されていないのです*2

添付文書に「予防効果は確認されていない」「HPV関連の病変の進行予防効果は期待できない」「定期的な子宮頸癌検診の代わりとなるものではない」「本剤の予防効果の持続期間は確立していない」って書いてある!

えーっと、落ち着いて、全体をよく読みましょう。「効能・効果に関連する接種上の注意」ですね。

(1)HPV-16型及び18型以外の癌原性HPV感染に起因する子宮頸癌及びその前駆病変の予防効果は確認されていない。

(2)接種時に感染が成立しているHPVの排除及び既に生じているHPV関連の病変の進行予防効果は期待できない。

(3)本剤の接種は定期的な子宮頸癌検診の代わりとなるものではない。本剤接種に加え子宮頸癌検診の受診やHPVへの曝露、性感染症に対し注意することが重要である。

(4)本剤の予防効果の持続期間は確立していない。 

(1)は、ワクチンの対象の型以外のHPVには効果ありませんということです。(2)は接種時にすでにHPV感染してたらそれは治せませんということです。(3)は(1)とも関連して、対象の型以外のHPVが原因で子宮頸がんになることもあるので、定期健診等は怠らずに、ということです。(4)に関して、まだこのワクチンが使われだしてから間もないので、最終的に何年効果が持続するかというデータがないという意味です。現時点で少なくとも6.4年継続することが確認済みで、恐らく20年以上継続すると推定されているそうです。子宮頸がん予防ワクチン:その有効性と安全性についてMRIC by 医療ガバナンス学会 湯地晃一郎

ガーダシルに組換えHPVウイルスが混入してるって?

根も葉もないデマです。ガーダシルの製造工程から考えても、あり得ません。

子宮頸がんの原因は実はHPVじゃないんでしょ?FDAもそれは認めたんでしょ?

いいえ。子宮頸癌の原因がHPVであることは世界中のお医者さんや研究者によって、日々検証され、再確認されており、ほぼ間違いない事実であると分かっています。HPVが子宮頸がんの原因であることを突き止めたハラルド・ツア・ハウゼン氏は、2008年にノーベル賞を受賞しています。
詳しくはこちらを→ワクチン「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の嘘」の検証をわかりやすくうさうさメモ

ガーダシルでがんがよけい進行することがあるんでしょ?

いいえ。そのようなデータはありません。

他にもいろんな噂をきいたんだけど…

ネット上のHPVワクチンに関する「噂」の検証記事について、本エントリでたくさん引用したサイトを改めて紹介しておきます。

いろんな噂の詳しい解説と、ワクチン自体の解説。たくさんの噂が検証されてます。リンクも充実。

HPVワクチンの有効性と安全性についてのエビデンスのまとめと、「うわさ」の疑惑に答えるデータの紹介があります。

以上は、「感染症診療の原則」から、HPVワクチン関係のおすすめエントリ。このブログでは他にもワクチン関係の話題が多く、もともと医療関係者向けのようですが、お勧めです。

最後に、「ワクチンで不妊に!」というデマが、どのような事態を巻き起こしたか、フィリピンの事例を紹介した当ブログのエントリです。面白半分で、「HPVワクチンって怖いらしいよ!人類滅亡を企んでるらしいよ!」などと広めている人たちは、その言葉で、もしかして救えたかもしれない命が、ワクチンから遠ざけられてしまう-そのようなことを、少しは考えてほしいと思います。そして本当に自分や自分の大切な相手のために、接種するかどうか決めるときに、このようなデマやウソに基づいた判断をしてしまうことがないようにしたいものです。 このエントリは、もし自分のまわりに、ネット上のデマのせいで接種をためらっていたり、接種したことを気に病んでいる人がいたら見てもらえるように、という気持ちで、これまでに見たサイト、書いた記事等を再度まとめたものです。しかし、結局、ネットの情報はどこまでいっても信じられないかもしれません。最後には、主治医の先生とよく相談されるのがいちばんいいのではないでしょうか。

*1:ワクチンの他にも抗原類は劇薬指定になっています。なぜワクチン類が劇薬指定となっているのかの事情は調べきれませんでした。事情をご存じの方、教えていただけたらすごく嬉しいです

*2:もちろん、これからもないという保証にはならないのですが