2015年12月17日WHO ワクチンの安全性に関する諮問委員会 HPVワクチンの安全性に関する声明

上記記事で取り上げられたWHOの声明の当該部分を訳してみました。毎度ですが、うさじまは医学・翻訳の専門家ではありませんので、用語の間違い等があるかもしれません。あくまでご参考、ということでおねがいします。

この声明はWHOのGACVS(ワクチンの安全性に関する諮問委員会)という専門家の委員会が出したもので、去年の3月にも同じようなものが出ていますが、これは厚労省の資料として翻訳したものを見ることができます。

コピペできないpdfなので、直接ごらんください。

今回の声明です。具体的な調査報告の部分はとばして、最初の段落と日本に言及しているところを訳してみました。ちょっと読みやすくレイアウトも変更しています。

2006年に初めて承認されて以来、世界で2億回分以上のHPVワクチンが出荷されている。世界保健機関(WHO)は、以下の条件において、HPVワクチンを国の予防接種プログラムに導入することを推奨する。

  • 子宮頸がん及び/またはHPV関連疾患の予防が継続的に公共の健康上の優先事項となっていること。
  • ワクチンの導入が計画的に実現可能であること。
  • 継続可能な資金が確保されること。
  • 当該国または地域における予防接種戦略の費用対効果が考慮されること。

GACVSはHPVワクチンについて生じた安全上の懸念について体系的に調査し、いくつかの報告を発表してきた。本日まで、本ワクチンに関する推奨を変更をきたすような安全性への問題は確認されていない。


Since first being licensed at the beginning of 2006, more than 200 million doses of HPV vaccines have been distributed globally. The World Health Organization (WHO) recommends that HPV vaccines be introduced into national immunization programmes provided that: prevention of cervical cancer and/or other HPV-related diseases constitutes a public health priority; vaccine introduction is programmatically feasible; sustainable financing can be secured; and the costeffectiveness of vaccination strategies in the country or region is considered1 . The GACVS has systematically investigated safety concerns raised about HPV vaccines and has issued several reports in this regard2 . To date, it has not found any safety issue that would alter its recommendations for the use of the vaccine.

日本が、被接種者における持続する疼痛その他の症状によって、国による定期接種の積極的な勧奨が差し控えられている状況にあることについては、追加コメントが必要である。国の専門部会による臨床データの評価の結果、これらの症状はワクチンと無関係であるという結論が得られたが、HPV予防接種(訳注、日本国内ではHPVワクチンは『子宮頸がん予防ワクチン』と呼ばれている)を再開するという合意には達しなかった。その結果、若い女性が、本来なら避けられたはずの、HPVによるがんになりやすい状況にさらされている。GACVSがすでに指摘しているように、安全かつ有効なワクチンを使用しなければ、実質的な被害がもたらされる可能性がある。

The circumstances in Japan, where the occurrence of chronic pain and other symptoms in some vaccine recipients has led to suspension of the proactive recommendation for routine use of vaccine in the national immunization program, warrants additional comment. Review of clinical data by the national expert committee led to a conclusion that symptoms were not related to the vaccine, but it has not been possible to reach consensus to resume HPV vaccination. As a result, young women are being left vulnerable to HPV-related cancers that otherwise could be prevented. As GACVS has noted previously, policy decisions based on weak evidence, leading to lack of use of safe and effective vaccines, can result in real harm.

村中先生の仰るとおり、かなり強い調子で批判していると感じます。

文書の次の段落では、継続的な医薬品安全性監視や有害事象報告システムの改善が重要である、とされています。これは日本では非常に遅れている部分であり、実際このような問題が起こった際に「ワクチンの副反応なのかどうなのか」を科学的に検証することが難しくなって、混乱と問題の長期化を招いていると思います。今後、他のワクチンや医薬品でも同様な状況が起こるおそれがあります。

(タイトル訳:世界はHPVワクチンが安全であると認めなければならない)

この声明の少し前にNatureに載った記事です。と言っても、これは論文ではなく専門家へのインタビュー記事(コラム)です。内容は、医学的な問題とは別のレベルでワクチンや薬などに対する社会的な不安が起こった場合に、どのような影響があるか、どうコントロールするのか、というような話。ここでも日本の話題が出ています*1

いくつかの国では、政治家が科学の側につく。そうでない国では、彼らは少数派の意見に屈する。日本はHPVワクチンの副反応の報告に曖昧な反応を示した。すなわち、調査中はワクチンの「積極的な」勧奨を取り下げながら、希望者には供給し続けた。調査によって、ワクチンとの明確な因果関係はないとされたが、勧奨は中止されたままである。

In some nations, politicians side with the science. In others, they bend to minority opinions. Japan reacted ambiguously to reports of HPV vaccine side effects: it withdrew ‘proactive’ recommendation of the vaccine while it investigated, but continued to provide the vaccine for those who demanded it. The investigations found no clear causal link to the vaccine, but the recommendation remains suspended.

この記事は、ワクチンをめぐる社会的な混乱の影響を軽視すべきではない、としています。たしかに、せっかく感染症を予防できる手段があるのに、社会的に受容されず、悪者扱いされて終わってしまってはとてももったいないです。

HPVワクチンの場合、性に関わるデリケートな問題に触れるものであったり、接種対象者が思春期であることなどから、導入に相当な慎重さが必要であったところを、現実には真逆であった…ということが大きいようです。

日本における現状については、毎回勉強になる「感染症診療の原則」がやはり参考になります。

上2つは情報の見方について、最後のエントリは自治体の調査のまとめとして、非常にわかりやすいです。


  

*1:サイトのコメント欄にも日本人からのコメントがたくさんついています。

インフルエンザワクチン懐疑記事の訂正版と反論記事

続報です。

3月6日に改訂版が公開されました。しかし、記事の趣旨はほぼ変わっていません。また、WHOがインフルエンザワクチンを妊婦、子ども、高齢者、慢性疾患のある人などにたいして毎年接種することをはっきり推奨していることについては相変わらずスルーしています。

この更新の三日後、六本木博之(六分儀ヒロユキ)氏による、元記事に対する反論記事が掲載されました。 

この記事について、六本木氏はtwitter上で以下のように発言されています。 
 





確かに、反論記事も掲載するだけ「まし」とも言えます。しかし、こういった論争の火付けをしたい人(エア論争クリエイター)にとっては、「議論の内容自体は難しそうだし興味もないけど、なんか言われてるらしいね〜」とか「よくわからないけど賛否両論あるっぽいから避けとくか」と思わせるだけでもかなりのメリットになると思われますので、複雑な気持ちです。また、往々にしてこうした反論記事の方がアクセスが少なかったりします*1

医師・医療関係者はインフルエンザワクチンをどう見ているか

医師がインフルエンザワクチンについてどう見ているかを調べてみました。書籍やネット上の情報、またtwitterで頂いたお答えを載せておきます。

ブログ「NATROMの日記」で、「ニセ医学」について幅広く検証されているNATROM先生の著書から。

反ワクチン論者は、ワクチンは万能ではなく欠点もあると主張する。その通りだが、他のあらゆる医療行為と同様である。メリットとデメリットを比較して、メリットのほうが大きければワクチンには価値がある。
たとえば、インフルエンザワクチンについて考えよう。ワクチンでインフルエンザを完全に予防することはできない。ワクチンを打っていても、インフルエンザにかかることがある。インフルエンザワクチンは流行するウイルスのタイプを予想して作られるが、予想が必ずしも当たるとは限らないからだ。さらにインフルエンザワクチンを打つことで、きわめて稀ながら副作用が生じるかもしれない。たとえば、100万回接種あたり1〜2人はギラン・バレー症候群という筋力低下や麻痺、ときには死に至る神経の病気にかかる可能性があるとされている。
しかし、ワクチンを接種するかどうは、メリットとデメリットをよく考えて判断するべきだ。私は、毎年インフルエンザワクチンを接種している。医師であるため、流行シーズンにはインフルエンザに罹った患者さんと接触するし、私自身が感染すると患者さんにうつす危険性だってあるからだ。完全にインフルエンザを防ぐことができなくても、感染したり重症化するリスクを減らすことができれば、十分にメリットがある。

「「ニセ医学」に騙されないために」p.55-56, NATROM

NATROM先生は、ブログの方でもインフルエンザワクチンの記事を書かれていました。

また、神戸大学病院感染症内科診療科長、国際診療部長の岩田健太郎先生は著書「予防接種は『効く』のか?ワクチン嫌いを考える」の中で、インフルエンザワクチンに予防効果がないという根拠として頻繁に引用される「前橋レポート」を詳細に検討しています。前橋レポートが書かれた時代には統計学的に検討した妥当な臨床研究を行うことがまだ困難であったとし、現代の基準で見ればその妥当性には限界があるとした上で、「インフルエンザワクチンには集団的予防効果がある」ことを示した複数の論文(日本の小児の例もあります)を紹介されています

では、近年になって、インフルエンザワクチンの予防価値についての研究があるのかというと、実はこれがあるのです。僕はインフルエンザワクチンについて、なぜ前橋レポートだけが特別に取り沙汰されて、後に出てきた新しい研究が無視されているのか、とても不思議です。

「予防接種は『効く』のか?ワクチン嫌いを考える」p177, 岩田健太郎

また、ワクチンに用いるウイルスの型予想の「当たり外れ」についても言及されています。

インフルエンザワクチンの「当たり年」「外れ年」がある、という個人的な経験をお持ちの方は多いようです。これはその年のインフルエンザの流行の状況にもよります。
しかし、1990年から2000年までの間、アメリカの高齢者を調べると、インフルエンザワクチンを接種された高齢者の方が、されない高齢者よりも、死亡率が低かったのです。1年たりとも外れ年はありません。程度の差こそありますが、インフルエンザワクチン「外れ年」はないのです(Nichol et al. NEJM 2007)。

「予防接種は『効く』のか?ワクチン嫌いを考える」p179, 岩田健太郎

感染症の専門家が、「インフルエンザワクチンは効くのか」という問いについて、根拠を挙げながらわかりやすく解説されています。


以下はTwitterで医療関係者に方に「インフルエンザワクチン接種の是非をめぐっては、医学界でも大きく意見が分かれているといえよう。」という元記事の結論について妥当と思われるかどうかについて質問してみて頂いたお答えです。




上記の堀先生の言葉が象徴するように、「ワクチンの是非」は、状況により、メリット・デメリットのバランスで決まります。医師の方々も「誰に対しては」抜きでは語らない話です。素人が簡単に判断できる問題でも、陰謀論でざっくり語れる問題でもありません。繰り返しになりますが、ワクチン接種に関してはかかりつけのお医者さんに相談するしかないと思います。

*1:六本木博之氏の記事は広く読まれてほしいのですが、この論争が「炎上」して「アクセスが稼げる」となってしまうのは好ましくないわけです。

WHOはインフルエンザワクチン接種を推奨している

2015.3.16追記

続報を書きました。

2015.1.26追記
元記事は現在「1月23日に掲載致しました本件記事につきまして、現在追加取材中につき一時的に非公開にしております」と記載され公開停止されています。しかしながら、いったん拡散された誤情報は転載等によりネット上でなんどもよみがえり、利用されることがあります。この記事はそのようなときのためにとりあえずは消しません。Business Journal により適切な訂正がなされることを願います。


インフルエンザの流行がピークを迎えています。そんな中、下記のような記事が公開されました。

この記事には「世界保健機関(WHO)のホームページを見ても、『ワクチンで、インフルエンザ感染の予防はできない。また有効とするデータもない』と書いてあります。そもそも、インフルエンザはA香港型、Aソ連型、B型などと分類しますが、同じ型であってもウイルスは細かく変異を続けているため、ぴったりと当てはまる型のウイルスを事前につくり出すことは事実上不可能です」などの記述があり、「ワクチンを打つことの是非は意見が分かれるところだが、予防効果には多少疑問がある。それどころか、毎年ワクチンの副作用によって死者も出ている。惰性で接種するのではなく、熟慮の上で判断するようお勧めしたい。」と結んでいます。「熟慮の上」と言われても素人には判断が非常に難しいことですし、あのWHOが「感染予防はできない」と結論したなら、うたないほうがいいかな…なんて思っちゃいそうです。

では、WHOのインフルエンザに関するWebページではどう書かれているのでしょうか。ファクトシートの「予防」の項目をざっと訳してみました(なお、今回の訳はあくまでざっくりですので、細かい医学用語に間違いがあるかもしれません。あくまで参考にとどめてくださいますよう、おねがいします)。

予防

インフルエンザおよび/またはそれによる重篤転帰を防ぐのにもっとも有効な手段は予防接種である。安全で有効なワクチンが利用可能であり、60年以上前から使用されている。正常成人に対しては、インフルエンザワクチンは妥当な防御手段となるだろう。高齢者に対しては、インフルエンザワクチンの疾病予防効果は低くなる可能性があるが、重症度や、合併症発生率および死亡率を低下させるかもしれない。

予防接種は、重症インフルエンザ合併症に対して比較的ハイリスクな人、またハイリスクな人と生活を共にしている人や介護している人には、特に重要である。

WHOは以下の人に対して毎年予防接種することを推奨する。

  • 妊娠のすべての段階にある妊婦
  • 生後6ヶ月〜5歳の子ども
  • 高齢者(65歳以上)
  • 慢性疾患のある人
  • 医療従事者

インフルエンザ予防接種は、広まっているウイルスがワクチンとよく一致している場合にもっとも有効である。インフルエンザウイルスは絶えず変化するため、WHO Global Influenza Surveillance and Response System (GISRS)(世界各地のNational Influenza Centresが連携している)が、ヒトの間で循環しているインフルエンザウイルスを監視している。

WHOは長年、ワクチンの成分についての推奨を半年ごとに更新してきた。これは、もっとも広まっている3つのウイルスの型(3価/2種類のA型ウイルスと1種類のB型ウイルス)を対象としている。2013-2014の北半球のインフルエンザシーズンの始まりと共に、従来の3価ワクチンに加え、B型ウイルスの第2の型を加えた4価ワクチンの成分についても推奨を開始している。4価のインフルエンザワクチンは、B型インフルエンザウイルスの感染に対して、より幅広い防御効果が期待される。


Prevention
The most effective way to prevent the disease and/or severe outcomes from the illness is vaccination. Safe and effective vaccines are available and have been used for more than 60 years. Among healthy adults, influenza vaccine can provide reasonable protection. However among the elderly, influenza vaccine may be less effective in preventing illness but may reduce severity of disease and incidence of complications and deaths.

Vaccination is especially important for people at higher risk of serious influenza complications, and for people who live with or care for high risk individuals.

WHO recommends annual vaccination for:

  • pregnant women at any stage of pregnancy
  • children aged 6 months to 5 years
  • elderly individuals (≥65 years of age)
  • individuals with chronic medical conditions
  • health-care workers.

Influenza vaccination is most effective when circulating viruses are well-matched with vaccine viruses. Influenza viruses are constantly changing, and the WHO Global Influenza Surveillance and Response System (GISRS) – a partnership of National Influenza Centres around the world –monitors the influenza viruses circulating in humans.

For many years WHO has updated its recommendation on vaccine composition biannually that targets the 3 (trivalent) most representative virus types in circulation (two subtypes of influenza A viruses and one B virus). Starting with the 2013-2014 northern hemisphere influenza season, quadrivalent vaccine composition has been recommended with a second influenza B virus in addition to the viruses in the conventional trivalent vaccines. Quadrivalent influenza vaccines are expected to provide wider protection against influenza B virus infections.

以上のようにWHOははっきりとインフルエンザワクチン接種を推奨しています。そもそも、文中にあるように、WHO自身が、ワクチンに使用すべき株の推奨を発表しているのです。

↑こちらから、ワクチンに使用する株のリコメンデーションを見ることができます。北半球と南半球で別になっていますね。

↑また、このようなキャンペーンもあります。

Global Action Plan for Influenza Vaccines (GAP)は、世界各国において、季節性のエピデミックおよびパンデミックに対する現在の世界的なインフルエンザワクチン不足を改善するための包括的戦略である。以下の3つを主要な取り組みとする。

  • シーズンごとのワクチン使用を増加させる。
  • ワクチン製造能力を拡大する。
  • 研究開発


Global Action Plan for Influenza Vaccines (GAP) is a comprehensive strategy to reduce the present global shortage of influenza vaccines for seasonal epidemics and pandemic influenza in all countries of the world through three major approaches:

  • Increase in seasonal vaccine use
  • Increase in vaccine production capacity
  • Research and development

元記事では「感染予防効果」にのみフォーカスしていますが、WHOのサイトにあるように「重症化や合併症の予防、死亡率を低下させる」ことにも大きな意味はあります。WHOの「結論」は、「ワクチンでインフルエンザは感染予防不可能」ではなく、「妊婦、高齢者、子ども、慢性疾患のある人、医療従事者は毎年予防接種することを勧める」です。毎回書いていますが、ネット上のワクチン情報はノイズがかなり多いですので、予防接種について迷ったら、かかりつけのお医者さんに相談することをおすすめします。

「manufactroversy=でっち上げられた論争(エア論争)」

本ブログでは医療・医学に関するデマを取り扱っています。以下のようなものです。

これらの記事で取り上げている話題は、専門家の間で論争になるようなことではありません。むしろ、「は?なにそれww」と一笑に付されるようなものでしょう*1。しかし、ネット上やテレビ、雑誌などのメディアで、あたかも「賛否両論」であるかのように取り上げられることがあります。それによって、専門家から見れば突拍子もないような「幻の争点」が、社会的(時には政治的)に力を持つことになります。

英語には、こういった現象を表す言葉があります。
Manufactured controversy 」 省略して、「Manufactroversy」

"Manufactured controversy"は、直訳すると「でっちあげられた論争」です。もうちょっとこなれた表現で、「エア論争」くらいでどうかなと思います。


The Skeptic's dictionary(懐疑主義の辞典)の解説を引用します。

manufactroversy はデマの一種で、大衆を混乱させる目的で論争をでっちあげることである。 manufactroversy は、議論になっていないような論点について、重大な異論が存在していると見せかけようとする。典型的な例は、「喫煙は肺がんの原因にならない」という意見を広めようとするタバコ業界のロビー活動など。

原文
A manufactroversy is a type of disinformation in which one manufactures a controversy to confuse the public. A manufactroversy tries to make an issue that is not in dispute appear to be one over which there is significant disagreement. Classic examples include: The Tobacco Lobby's campaign to spread the notion that cigarette smoking does not cause lung cancer

manufactroversy, the skeptics dictionaryより、うさじま訳

他の例として、以下のようなものが挙げられています。


これらのキャンペーンは、日本にも輸入されていますので、きいたことがある方も多いのではないでしょうか。「ニセ科学」の例として取り上げられているものもあります。記事によれば、修辞学教授のLeah Ceccarelli氏いわく、 これらの主張を行う人々の動機は、「金銭的な利得か、極端な思想」だそうです。そして、実際には論争になっていない「問題点」について、大衆の混乱を意図的に引き起こすのです。彼らは陰謀論や、「科学の神聖なる教義に挑戦したために迫害されいてる」という主張を好みます。「エア論争」クリエーターには、医師や学者などの肩書を持つ人が少なくありません。架空の論争をでっち上げるにはこれらの肩書は非常に有効でしょう。記事中の、懐疑主義者の医師、Dr. Harriet Hallの文章を引用します。

反ワクチンの『エア論争』を)創りだすのは、ダメな科学(junk science)、不誠実な研究者、職業上の非行、完全な詐欺、虚偽、故意に歪めて伝えること、不適切*2な報道、嘆かわしい広報、お粗末な判断、医学のすべてより自分たちが賢いと考える有名人、そして、少数の無分別な独自路線の医師である。  


原文
created by junk science, dishonest researchers, professional misconduct, outright fraud, lies, misrepresentations, irresponsible reporting, unfortunate media publicity, poor judgment, celebrities who think they are wiser than the whole of medical science, and a few maverick doctors who ought to know better.

manufactroversy, the skeptics dictionaryより、うさじま訳

日本で最近話題になっている例といえば、「がんは放置していい」だとか「輸血は不要」だとかがありますね。ワクチン危険論は色々と、根強くあります。


「エア論争」を作り出す人々に加えて、世間に拡散する人々もいます。Skeptic's dictionary の記事では、「科学に疎いジャーナリストが、まともな専門家に話を聞かずに、「エア論争」クリエーター(反ワクチン論者など)を専門家のように取り上げて、その主張を拡めるのに一役買っている」と指摘しています。日本でもこれはよくあることです。また、政治家が絡んでくるとさらにやっかいです。政治家は、現実の世の中を動かす力(自分の意見を政策に反映させる力)を持っています。つまり実行力があります。パワフルな実行力を持つ人が、間違った信念に基づいて行動することで、社会ぐるみで見当違いな努力がなされることになります。もちろん、税金を使って…。「エア論争」キャンペーンに身を投じるジャーナリストや政治家たちの中には、利得のためだけでなく、ある種のヒロイズムに酔っている人もいるようです。「科学」や「医学」という権威に立ち向かい、真実を暴き、大衆を良き方向に導くというような…(もちろん、『エア論争』の拡散自体にも利得はあります。例えばデトックスやサプリの販売に気軽に利用できます。また、人を脅かすような情報は「よく売れ」ます。最近では「炎上商法」と呼ばれる、論争そのものでアクセスを集めるやり方もあります)。


「エア論争」は、一度社会に広まってしまうとなかなか消えません。「エア論争」のキャンペーンでは、「『言論の自由』や『学問の自由』、『懐疑主義』といった、科学や民主主義にとって重要な概念を巧みに利用する」、とskeptic's dictionaryの記事にあります。たしかにこのフレーズが出てくると安易に切って捨ててはいけないような気がしてしまいます。しかし実際には「特に根拠を示さなかったり、事実誤認/曲解を元になされている主張」であり、「主張するならまずお前が証拠を示せ」と毅然とした態度を取るべきでしょう。どんなに誠実に「論争」に応じても、彼らは決して自分たちの主張を引っ込めたり、誤りを認めることはありません。彼らにとって、真実はどうでもよいからです。彼らの望みは問題の解決ではなく、「論争」そのもの、そしてその「論争」を利用して自分たちの考えを拡めることなのです。


ニセ科学」の問題と同様、白黒はっきり付けられないグレーな問題はもちろんあります。「エア論争」の主張の中に虚と実が巧妙に入り乱れている場合もあります。また、「かつては確かにそういった論争があったが、研究により結論がでて解決済み」なこともあります。ですから、厳密な線引きは困難でしょう。しかし、ねじ曲げられた根拠やデマに基づく「どう見てもエア」な論争に付き合うのは無駄です。それどころか、「エア論争」の存在によって、当事者が本当に困っていることや、問題の真の原因から目をそむけることになれば、問題解決からは遠のくばかりです。「エア論争」を真に受けて「エア問提議」することで存在感を示した気になる政治家やジャーナリストは、社会にとって害になるといえます。


輸血の例で言えば、「患者が○○な状態の時に、輸血をしたほうが助かる率が高いのか?」というような医学的な論争はあっても、「輸血自体が不要である」という論争はありません。感染リスク等があるので輸血はしないほうがいいに決まってますが、輸血しなきゃ死ぬ場合はしなきゃしょうがないわけです。こういう細かい(条件を限定した)議論と大きい議論の混乱、「しないほうがいい」と「絶対にするべきでない」の混同なんかは「エア議論」のトリックにありがちです。ここで「輸血不要論」を真に受けて「今まで騙されてた!よし今までやってたけどもう献血やめよう!」だとか「輸血は怖いから絶対にイヤです!」、ひいては「輸血を今すぐ禁止しろ」という人が出ると社会の損失につながります。


既存の科学や医学の常識に疑問を持つのは悪いことではないでしょう。しかし、基礎知識のないままに、「自分の頭で考え」ようとすると、「エア論争」に取り込まれてしまうことがあります。「エア論争」クリエイターたちが、そのように誘導しているからです。「科学や医学が権威としてふるまっていて、自分たちはそれに対抗するレジスタンスである」、といった気持ちのいいストーリーを構築しているのです。実際には、(捏造や曲解やデータのつまみ食いをせず)事実ベースできちんとした証拠を提示すれば、「エア論争」はまともな「議論」として、専門家により吟味されるでしょう。


「エア論争」について、専門家は、黙殺することも少なくありません。相手が説得に応じる見込みが少ないですし、あまりにも突拍子がないために逆に反論しづらかったり、無理ないいがかりでもきちんと反証しようとすると膨大な手間がかかります。また、炎上商法の片棒を担ぐはめになるのを避けたいということもあるでしょう。しかし、「エア論争」が見当違いで無意味なものであるということについては、やはり専門家に指摘していただくしかないのではないかと思います。今はSNS等で直接発信できますから、不毛な対決や「なんちゃって両論併記」にならない形で、反論することもできるのではないでしょうか。ただ、「エア論争」を商売でやっている人や、信者化してしまっている人からの嫌がらせ等が予想されるのが辛いところですが…。専門家個人というより、学会などの団体として毅然とした反論を示すことも有効ではないでしょうか。


わたしたち一般市民にできることと言うと、煽りメディアや炎上商法に「乗らない」ことでしょうか。自分が当事者であるばあいには、難しいかもしれませんが。「エア論争」クリエイターが一定数出てくるのはある意味防ぎようがないことにも思えます。こういうデタラメを拡めるかどうか、メディアの果たす役割は非常に大きいと思います。そういう情報発信は要りません、と意思表示していくこと…これも難しいですが、マスメディアを「育てる」しかないのかもしれません。

*1:過去に論争になったがデータが蓄積されて解決済みとなった問題を蒸し返し続けるパターンもあります。

*2:twitter経由でのご指摘により「無責任」から訂正しました。ありがとうございました。

子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)に関するインターネット上の情報検証記事 MRIC by 医療ガバナンス学会

医療ガバナンス学会のメルマガで、インターネット上の子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)に関するインターネット上の情報についての検証記事が連載されていました。産婦人科医による記事であり、根拠となる一次資料も提示されている丁寧な検証で、どんどん込み入ってくる本ワクチンをめぐる情報を読み解くのに非常に有用であると感じたので、紹介させていただきます。記事で扱われているのは、最近インターネットで(時に他のメディアでも)見かける子宮頸がんワクチン危険・不要・無効などの主張の根拠としてよく引用されている内容です。ここではその「根拠」とそれに対する検証の結論を簡単にまとめておきます。元記事の詳細な検証を是非ごらんください。

Vol.210 HPVワクチンのリスク・メリット―インターネット情報の真偽(1), 尼崎医療生協病院 産婦人科 衣笠万里

NPO法人・医薬ビジランスセンター理事長の浜六郎氏によるHPVワクチンのリスクに関する記事の検証です。

  • サーバリックス臨床試験でワクチン注射後4年足らずで、30 人に1人が慢性の病気になり、100人に1人が自己免疫疾患になり、800 人に1人が死亡」→対照群であるA型肝炎ワクチン接種群とさがなかった。
  • サーバリックスA型肝炎ワクチンに含まれるアルミニウム化合物自体が慢性疾患や自己免疫疾患を引き起こす」→多くの疫学的調査から、アルミニウム含有ワクチンと神経疾患や自己免疫性疾患との因果関係は否定されている。WHOの諮問委員会(GACVS)はアルミニウム含有ワクチンによって重大な健康被害が生じることを裏づける科学的な根拠(エビデンス)はないと結論している。

臨床試験だけでなく市販後の大規模な疫学的調査でもHPVワクチンの安全性を支持する報告が出てきている。昨年ブリティッシュ・メディカルジャーナル誌に発表された北欧からの論文では、ガーダシル接種者約30万人と非接種者約70万人との間で各種自己免疫疾患・神経疾患・静脈血栓塞栓症の発生頻度を比較したところ、両群間で明らかな差がなかったことが報告されている[9]。同様に米国・英国・フランス・オーストラリアの市販後調査でもHPVワクチンによって特に問題となる健康被害は出ていないことが報告されている。

Vol.210 HPVワクチンのリスク・メリット―インターネット情報の真偽(1), 尼崎医療生協病院 産婦人科 衣笠万里  より。強調はうさじまによる

Vol.211 HPVワクチンのリスク・メリット―インターネット情報の真偽(2), 尼崎医療生協病院 産婦人科 衣笠万里

トムルジェノビック(Tomljenovic, L)氏およびショー(Shaw,CA)氏による、「ガーダシル接種後に突然死した2人の女性の検死によってられた脳の標本に免疫組織化学を施し、ワクチンに含まれるHPV16型の蛋白抗原が脳血管壁に認められたことから、ワクチンに起因する脳血管炎によって急死した」とする論文の検証。具体的な内容は本文をご覧ください。結論として、「HPVワクチンによって脳内で血管炎が起こっているという彼らの主張には信じるに足る証拠がない。」としています。

現在までに全世界ですでに1億数千万本ものHPVワクチンが出荷されているので、接種者の中にはワクチンとは無関係に重病を患ったり突然死したりする人々も相当数含まれることになる。したがってワクチン接種とその後の容体の悪化との因果関係の有無については十分な疫学的調査に基づいて評価すべきである。

Vol.210 HPVワクチンのリスク・メリット―インターネット情報の真偽(1), 尼崎医療生協病院 産婦人科 衣笠万里  より。強調はうさじまによる


また、国内で報告されている、接種の慢性疼痛についても解説されています。

  • 浜六郎氏はそれらの症状を抗リン脂質抗体による自己免疫疾患の徴候ではないかと推測している→その根拠となるデータが示されていない。

厚労省の「心身の反応あるいは機能性身体症状」という評価についても解説しています。

実際、身体所見や臨床検査・画像診断などで特に器質的病変が認められないのに長期間にわたって繰り返し激しい疼痛を訴える患者に遭遇することは日常診療において珍しくない。それらの症状は生活環境の変化で自然に軽快する場合もあれば、心理療法抗うつ薬抗不安薬などの薬物療法によって次第に改善される場合もある。しかし最初に精神神経科あるいは心療内科への紹介を打診したときには、あからさまに拒否されないまでも受診をしぶる患者が多い。「こんなに痛くて苦しいのに、どうして先生は“気の病”のように言うのか?」と。しかしそのような心身の症状はもちろん仮病でもなければ“気の病”と呼ぶべきものでもなく、他の身体疾患と同様に専門的な知識と経験、ときに集学的な治療を要する一つの疾患群であると心を込めて丁寧に説明すれば、理解していただけることも多い。

ワクチン接種後の女性を苦しめている多彩な症状についてはあらゆる可能性を視野に入れながら治療法が解明されていくことが望ましく、心身の反応あるいは機能性身体症状という学説に対しても最初から門前払いするのではなく、考慮しうる一つの可能性として前向きに治療に取り組んでいただきたいと願っている。

(同上)

Vol.212 HPVワクチンのリスク・メリット―インターネット情報の真偽(3), 尼崎医療生協病院 産婦人科 衣笠万里

HPVワクチンの効果について。

  • 「ワクチンが実際にがんの発生を抑えたというデータは存在せず、ワクチンを接種したグループに子宮頸がんになる前の異形成(前がん病変)が少なかったという臨床試験のデータがあるにすぎない。」→HPVに感染してから発がんまでは10〜20年の期間がある。また、臨床試験ではワクチン接種群も対照群も詳しくフォローするので、がんになる前の段階で見つかり治療することが多いとかんがえられる。これらのことから、臨床試験では「がん自体を予防する効果」は見えない可能性がある。

しかしHPV感染から異形成を経て子宮頸がん発病に至るプロセスはこの数十年間の医学研究によってほぼ確立された定説となっている。たとえば高度異形成あるいは上皮内がん・上皮内腺がんと呼ばれる前がん病変を長期にわたってそのまま放置して浸潤癌になるまで見届けるということはもはや倫理上大きな問題となる。がん検診を受けていればワクチンは必要ないと主張する人々も、実際には検診で上記病変が見つかれば浸潤がんになる前に治療できることを前提にしている。すなわちワクチンで前がん病変を予防できるのなら、その先の頸がんもほとんど予防できるという予測には妥当性がある。

Vol.212 HPVワクチンのリスク・メリット―インターネット情報の真偽(3), 尼崎医療生協病院 産婦人科 衣笠万里より。 強調うさじま

  • 「HPVワクチンの添付文書にはいずれも「本剤の予防効果の持続期間は確立していない」と記載されている」→下記引用

認可されてから10年に満たないため、有効期間がいつまで続くのか現時点で明らかではないからである。しかしHPV16/18型由来の病変に対する両ワクチンの予防効果は接種後8〜9年間減弱することなく持続している[20][21]。ワクチンの効果はある日突然消えてなくなるというものではなく、減衰するとしても年月を経て緩徐に低下していくと考えられる。ガーダシルと同成分のアルミニウム化合物をアジュバントとして含んでいるB型肝炎ワクチンの感染予防効果は20年以上続くことが確認されており、製薬会社の試算ではHPVワクチンも同様に20年以上にわたって有効であろうと予測されている。しかしその真否については今後長期のフォローアップが必要である。ネット上で「ワクチンの効果は数年間しか続かない」といった書き込みを見かけることがあるが、少なくともそれは誤りである。

同上


 

Vol.213 HPVワクチンのリスク・メリット―インターネット情報の真偽(最終回), 尼崎医療生協病院 産婦人科 衣笠万里

リスクとメリットのバランスについて。

  • 「子宮頸がんによる死亡率を低下させる最大効果に対する重篤害反応の頻度は、海外で3.5 倍から約10 倍、日本では6〜9 倍(ガーダシル)ないし17〜23倍(サーバリックス)」→その計算に用いた子宮頸がんによる死亡率は1年間のもので、生涯のリスクはその数十倍である。

国立がん研究センターのがん情報サービスによれば、子宮頸がんの生涯罹患率は76人に1人、生涯死亡率は332人に1人と推計されている[27]。これを人口10万人当たりに換算すると、生涯罹患率は約1300人、生涯死亡率は約300人となる。既述のごとく頸がんと体がんとに区別されていない「子宮がん」としての届け出件数も多いので、実際にはさらに多いことになる。ワクチンで予防できるのがその半数であったとしても、ガーダシルおよびサーバリックス投与後の重大な有害事象(因果関係不明のものを含む)のそれぞれ60〜70倍、20〜25倍の数の女性が子宮頸がん発症を免れ、それぞれ14〜16倍、5〜6倍の女性の命が守られることになる。すなわちリスクとメリットのバランスは完全に逆転し、ワクチンのもたらす恩恵は副反応のリスクをはるかに上回る。ワクチンの有効期間が不確定であることを考慮に入れてもこのリスク・メリット比が逆転することはないだろう。

リスクとメリットのバランスについて。

  • 「きちんと子宮頸がん検診を受けていればワクチンは必要ない」→検診のみの予防には限界がある。

しかし検診のみで子宮頸がんの発症やそれによる死亡を防止することには限界がある。検診受診率がすでに80%に達している英国でも若年女性の頸がんによる死亡率はこの10年間さほど減少していない[28]。そのため英国では積極的にワクチン接種を進めており、2012〜13年にかけて12〜13歳の女児の86%が3回のワクチン接種を完了したことが報告されている[29]。
検診の有効性は確立されているとはいえ、その精度には限界があり、実際には検診で異常なしと判定された女性に翌年進行がんが発見されることもある。たとえ検診によって発見された前がん病変に対して子宮頸部の部分切除(円錐切除術など)をおこなうことで子宮を温存できたとしても、妊娠時には流産・早産のリスクがいくぶん高くなる。さらに前がん病変の切除手術を受けた女性はその後も生涯にわたって子宮頸がん発症やそれによる死亡のリスクが一般女性よりも高いことが報告されている[30]。つまり予防に勝る治療はないのである。従ってワクチンによる発がん予防(一次予防)と検診による早期発見治療(二次予防)とを上手に組み合わせて女性の子宮と命を守っていくことが望ましい。

(同上)

おわりに

国政や地方行政に携わる方々、世論に大きな影響力をもつメディアの方々、そしてワクチン接種対象年齢の方々やその保護者のみなさまには、ワクチンの副反応のリスクだけではなく子宮頸がんの脅威や期待されるワクチンの効果についても、まずは信頼に値する情報をしっかりと収集した上で意思決定をおこなっていただきたい。くれぐれも科学的根拠に基づかないネット情報や意図的にワクチンのリスクを強調して恐怖をあおる団体のキャンペーンに惑わされて判断を誤ることがないように願っている。もちろんわれわれ産婦人科医としても今後さらに正確で分かりやすい情報を積極的に提供していきたい。

(同上)

ここ1,2年で、ネット上で手に入る子宮頸がんワクチン関連の情報は、玉石混交の「石」の比率が圧倒的に高まっているように思われます。専門家によるこういった情報整理は非常に有用で、意思決定の際に参考になると思います。

予防接種した子どもよりしていない子どもの方が健康?

ワクチンが子どもの健康を害している」「予防接種をしていない子どもの方が健康」という記事を数年前から見かけます。その根拠の一つとして、「KiGGSという調査」と「VaccineInjury. Infoの調査」の数値を比較しているものがあります。前者からワクチン接種者、後者からワクチン非接種者の健康に関するデータを引用し、比較するのです。以下がその例です(魚拓)。

これらはたぶん同じ記事を元ネタにしたものと思われます。で、その元ネタはこちらのようです。

(タイトル訳)大規模調査:予防接種を受けた子どもは、受けていない子どもに比べて2〜5倍病気になりやすい

論文っぽいタイトルですが、論文ではありません。「health freedom aliance」というサイトの記事です。「health freedom」というのは、製薬企業批判&もっと自由に代替医療を使わせろというのをテーマにした、代替医療系の人達によるムーブメントだそうです*1


この記事中のグラフで、「KIGGS」と「Survey Unvaccinated children(予防接種を受けていない子どもの調査)」が比較されています。項目はアレルギー、喘息、ヘルペス、花粉症など。すべての項目で、予防接種を受けていない子どものほうが割合が低くなっています。本文を見ると、「KIGGS」の方はドイツ国民調査、「Survey Unvaccinated children」は、Vaccineinjury. Infoによるインターネット調査とあります。異なる調査の値を一つのグラフにまとめているわけです。これらの調査の値は、直接比較できるでしょうか?

KiGGSとは?

KiGGS studyは、ドイツ連邦保健省の下にあるロベルト・コッホ研究所*2により2003年から行われている調査で、正式名称を“German Health Interview and Examination Survey for Children and Adolescents”といいます。2003〜2006年に「KiGGS baseline study」と呼ばれる調査が行われ、0〜17歳の17,641人が参加。面接及び血液・尿の検査により、健康状態が調べられました。こちらで詳しい方法などを見ることができます。KiGGSは、ドイツ全土の子ども・青年の健康状態を包括的に調べることを目的としています。しかし、予算等の限界があるので、全員を調査することはできません。そのため、できるだけ全体を代表するような個人を抽出できるよう、気をつけてデザインされています。

調査方法

  1. 167ヶ所のサンプリング・ポイントを定める。
  2. 調査対象を地域住民の公式登録簿からランダムに選ぶ。
  3. アンケートは両親に書いてもらう。11歳以上の子どもには同じ質問に本人も答える。
  4. 健康診断、医師による面接、血液検査・尿検査。
  5. 男子8985人、女子8656人、計17641人が参加。

The challenge of comprehensively mapping children's health in a nation-wide health survey: Design of the German KiGGS-Studyより

この集団に対して、2006年以降も調査が続けられています(KiGGS wave1)。このような、ある集団に対する追跡調査を、コホート調査と呼びます。日本でも、現在、東北メディカル・メガバンクの三世代コホート調査が行われています


KiGGSは、かなりの予算と年月を費やして行われているドイツの国家事業であることがわかります。ドイツの子どもたちがいろいろな病気にかかる割合を、よりよく推定できることが、KiGGSの特徴として挙げられています

 
 

Vaccineinjury.Infoの調査とは?

一方、「ワクチン未接種」のデータの出どころであるVaccineinjury.Infoの調査は、どうでしょう。KiGGSと比較するため、以下の概要から、調査方法を抜き出してみます。

  1. 13,673人が参加。
  2. インターネットのアンケートによる調査。
  3. 0−2歳児が多数を占める(ここを見ると約4割が0−2歳児で、年齢が上がるごとに減っていき13歳以上はかなり少ない)。

データ収集のためのアンケートは、VaccineInjury.Infoのサイトにあります。VaccineInjury.Infoは、サイト名からも分かるとおりの、露骨な反ワクチンサイトです。主催者のAndreas Bachmair氏は、ドイツの「古典的ホメオパシー医」だそうです。アンケートの項目にも「あなたが好む治療法はなんですか」の選択肢が「ホメオパシー 自然療法 伝統医学(自然療法などに対して、通常の医師が行う医療を指す)」とあります。このサイトをわざわざ訪れて、「ワクチン非接種の子どもたちの健康調査アンケート」に回答する人は、どんな人でしょうか。「ワクチンなんか打たなくても、うちの子は健康」と確信している親が多いのではないでしょうか。KiGGSと比較して、かなり偏っていることが予想されるのです。


さらに、対象の子どもたちの年齢分布が異なること、VacineInjury.Infoの健康調査が親へのアンケートのみであること、重複して回答する人を除いていない可能性があることなどから、この調査とKiGGSのデータを直接比較するのは無理があると思います。

 

KiGGS版、ワクチン接種者と未接種者の比較

実は、KiGGSのレポートとして、「ワクチン接種した人としてない人の比較」の論文が出ていました

この論文は、ベースライン・スタディ参加者のうち、移民以外の1−17歳(13,454人)について、予防接種を受けたかどうかと、健康状態について調査したものです。年齢構成は1−5歳、6−10歳、11−17歳でざっくり4千人、4千人、5千人。で、ワクチンを一度も接種したいないにはこのうち94人(0.7%)です。

図2. 過去12ヶ月に感染症にかかった回数(左:ワクチン未接種 右:一度以上ワクチン接種あり。年齢別。)

図3. 少なくとも一つのアトピー性疾患と診断された人の割合(左:ワクチン未接種 右:一度以上ワクチン接種あり。年齢別。)

棒グラフの先にある「I」のような線は「エラーバー」と言い、「95%信頼区間」を示しています。これについては、下記の説明が分かりやすいと思います。

…わかりやすいとは言っても難しいですね。非常にざっくり説明してみます。こういう調査では、コストや手間の関係で全員を調べることができませんから、一部の人を調査する(サンプリングと言います)ことで全体の値を推定します。サンプリングする際に、できるだけ偏らないように気をつけますが、それでも全員を調べた場合の「真の値」とはズレがある可能性があります。「95%信頼区間(エラーバーの範囲)」は、その範囲に「真の値」が入る確率が95%であることを示します(実際に調べた人数が多いほど、この範囲は狭くなります)。このような調査結果を見る場合には、サンプリングによるズレを考えても、「真の値」はまあほぼこの中にあるだろう、ということで、95%信頼区間の範囲を考慮します


また、グラフの下に書かれている「p=0.009」等の値(p値)も重要です。この値はまたざっくり言うと、小さいほど、「ワクチン接種者と未接種者の値の差が偶然(サンプリングによってたまたま差がついたように見える)とは考えられない」と言えます。一般的にp<0.05の場合に、「偶然ではない(有意差がある)」と考えます。


これらを踏まえてグラフをみてみましょう。棒グラフの値だけを見ると差があるように見えますが、95%信頼区間とp値を考えると、ワクチン接種者と未接種者で、感染症にかかった回数、アトピー性疾患になる割合に差があるとはいえません。この他、アレルギー性鼻結膜炎、アトピー性湿疹、気管支喘息について調べましたが、どれもワクチン接種との関連は見られませんでした(表2)。


ただし、ワクチン未接種者の数が非常にすくないため、小さな差は見えなくなっています(このことは、論文の「限界」として、本文にも書かれています)。


一方、予防接種した子どもたちとしていない子どもたちで差がついた項目がありました。

図1. 調査までにそれぞれの病気にかかったことがある割合(左:ワクチン未接種 右:それぞれの病気のワクチンを十分に接種済み
左から「百日咳」「麻疹(はしか)」「おたふくかぜ」「風疹」

非接種者の少なさにくわえ、「ワクチン接種者」の方には、ワクチン接種前の感染の数も含まれているために、さらに差が見えにくくなっていますが、それでも風疹以外はp<0.05で有意にワクチン接種者の感染率が低くなりました。それだけはっきりした差があるということです。この論文のまとめ部分を要約しておきます。

  • KiGGSのデータでは、1−17歳の青年・子どもの0.7%がワクチンをまったく接種していなかった。
  • ワクチン接種した子どもとしていない子どもで著しく差があったのは、ワクチンで予防可能な病気(VPD)に罹った割合のみだった。つまり、予想通り、これらの病気については、ワクチン接種した子どもで明らかに感染リスクが低かった
  • しばしば予想されるワクチン接種者と未接種者の健康上の違い(アレルギーや、感染症に罹った回数)については、差がみられなかった


この論文は未接種者の数が少ない、親や子どもへのインタビューで情報収集したデータを含むために正確さを欠く等の限界はありますが、青年・子どもを対象とした包括的な健康調査としては最大規模のものです。また、本論文に引用されていましたが、他の論文でも、これまでにワクチン接種とアレルギー疾患についての関係を調べたものがありますが、やはり関連は見られなかったそうです*3


まとめ

  • KiGGSのデータとVaccineInjury.Infoのデータは、サンプリング方法や年齢分布がまったく異なるため、これらを比較して「ワクチン未接種の子供のほうが健康」という結論を出すのは無理がある。
  • KiGGSのデータでは、感染症にかかる割合、アレルギー疾患(アトピー性疾患や気管支炎など)になる割合に差はなかった。
  • KiGGSの他の調査でも、ワクチン接種とアレルギー疾患に関連性はないと報告されている。

*1:wikipedia "Health freedom movement"

*2:結核菌やコレラ菌を発見し、『細菌学の祖』と呼ばれるコッホが設立した研究所

*3:Bernsen RMD et al. Early life circumstances and atopic disorders in childhood. Clinical and Experimental Allergy. 2006;36:858–865., Gr〓ber C, Warner J et al. the EPAAC Study Group Early atopic disease and early childhood immunization - is there a link? Allergy. 2008;63:1464–1472., Muche-Borowski C et al. Klinische Leitlinie: Allergiepr〓vention: Allergiepr〓vention. Dtsch Arztebl Int. 2009;106:625–631.

複雑怪奇な「有害事象」と「副反応」のまとめ

ワクチンの安全についての情報として、一般に(時にはマスメディアでさえも)あまり理解されていない概念として「有害事象」と「副反応」があります。


「有害事象」は、薬物(ワクチン)との因果関係がはっきりしないものを含め、薬物を投与された患者に生じたあらゆる好ましくない, あるいは意図しない徴候,症状,または病気を指します。「副反応」は、ワクチン接種によって起こる、免疫付与以外の反応のことを指します。ちなみに、ワクチン以外の薬品投与により起こる、主作用(病気を治療する作用)以外の作用のことは、「副作用」といいます。「有害事象」の例としては、「接種後に接種部位が腫れた」など接種との関連が想定されるもののほかに、「接種後に風邪をひいた」とか、「接種後に転んで骨折した」なども含まれます。


ところが、日本のワクチンに関する情報発信ではこれがさらにややこしいことになっているのです。


どういうことかというと、厚生労働省による「副反応の報告基準」において、通常なら「有害事象」という言葉を使うべきところで「副反応」という言葉を使っていて、この報告の結果出てくる「有害事象」の報告が「副反応」と呼ばれてしまっているのです。 わかりにくいので表にまとめてみました。


言葉の定義は日本薬学会「薬学用語解説」及びwikipediaを参照しました。


なんでこんなことになっているか、「2012年11月14日 第23回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会議事録」で経緯の説明を見ることができます。

○岡部委員 資料2、資料3に共通なのですけれども、副反応という言葉について、全てを副反応というふうにしているので、しばしば誤解があると思うのです。
 今までの部会あるは分科会でも有害事象の捉え方ということと、それから副反応ということをしていかないと、副反応という報告を求めているつもりでいながら有害事象が含まれていたり、本来は有害事象であるのに副反応という言葉がひとり歩きをしたりということがしばしば見られているので、本来は有害事象を集め、その中の副反応について検討するというようなあり方が正しいのではないか
と思います。


○加藤部会長 この件につきましては、私も同じような意見もありましたが、厚労省と少し話し合いをしまして、一定の見解を得ておりますので、正林課長から御説明をいただきます。


結核感染症課長 有害事象というのは、因果関係はあるもの、ないもの全てを有害事象として捉えると。
 副反応というのは、本来は、ある程度因果関係があると想定されるものが副反応という言い方をするので、今の岡部先生のような御指摘だったと思いますけれども、これは、日本語のニュアンスなのですが、有害事象という日本語から来るニュアンスは物すごく悪いものというか、むしろ言葉のニュアンスからすると、一般的な日本語の感覚としては有害事象と言ったほうが何となく因果関係がより強いものが集まってくるようなイメージで、恐らく一般人は捉えられるのではないかと。それで、私ども副反応の報告を求めるときに、予防接種法でやるときは、因果関係を問わずという形で報告を求めていますので、そのような修飾語をつけることによってやることができないかなと考えています
が、いかがでしょうか。


○加藤部会長 蒲生委員、私を含めて治験とかいろんなことを昔やった経験がある者としては、有害事象という言葉をよく使うのですけれども、一般の方々から見たときに、有害事象という言葉に関して違和感を感じられますか。


○蒲生委員 感じます。課長がおっしゃったとおりで、有害事象のほうが悪いことのように思います


○加藤部会長 ありがとうございました。ということでございます。どうぞ。


○岡部委員 確かに現在ではニュアンスもそうで、私も有害事象(Adverse events)という言葉が英語でスタートしたときは、そういうふうに思っていたんですけれども、しかし、例えばPMDAの治験のときでも、有害事象がこのぐらいで、その中から副反応と思われるのが、このくらいであるというような形になっていきますので、そこは言葉のつくり方に関連してくるのではないかと思います。むしろ、副反応報告として、これは委員会の名称も副反応の検討というと、そこに上がってくるものは全て副反応であると、非常にストレートにとられがちなので、むしろ言葉の定義をしっかりしていったほうがいいのではないかと、私は思うのですけれども。


○加藤部会長 どうぞ。


○蒲生委員 何度もありますように、任意という言葉を使ったがために受けなくてもいいというふうに誤解があるように、副反応と言ってしまうと怖い、有害事象だともっと怖いみたいになるので、因果関係があるとか、何か修飾語をつけたほうが一般の方にはわかりやすいのではないかと思います。


○加藤部会長 ありがとうございます。この件で何か御意見はありますか、今、岡部委員から提案があった、全部が副反応ではないので、有害事象という言葉が有用ではないかという御意見があります。一方では、課長がお話しになったように、蒲生委員の御意見と全く同じで、一般の方々から見ると、有害事象というのは、より大きな怖い予防接種をした後、生じるような症状と捉えられる可能性が高いと、こういう御意見でございますが、その中で、もう少し副反応という言葉を使うのであれば、修飾語のようなものを因果関係に問わず、因果関係とは関係なくというような意味合いを含めたうまい言葉ができないかと、こういうような御意見ですね。何か今すぐに知恵は出ませんね。


結核感染症課長 修飾語としては、因果関係を問わない副反応とか、因果関係のある副反応とか、きちんと使い分けながらやればいいかなと思いますけれども。


○蒲生委員 例えば、ワクチンによるとか、また、因果関係というのも一般的にはわかりづらいので、明らかにワクチンによる重篤なと、重篤というのも一般的にはわからないのですけれども、重い副反応、副反応は必ず出てもおかしくない、小さなものから大きなものまでいろいろありますので、その辺がわかりやすい言葉になると、よりお母様としては受けやすいと思います。


○加藤部会長 この件で、どうぞ。


○坂元委員 副反応と有害事象という言葉なのですけれども、特に実際に接種をやられている先生の中で、よく海外の文献を引用されるなかで、海外の文献は、ほとんどアドバースイベントで統一されていて、その翻訳用語が有害事象となっていて、その副作用に相当する英語というのがなかなかないということと、外国からの情報との整合性で、よく先生方からどういうふうに考えたらいいのかとの問いがあります。つまり副作用なのか有害事象なのかと聞かれます。ただ、国際的にはアドバースイベントという言葉で統一されているようには思うのですが、やはりインターナショナルなものとの整合性というのはある程度考えたほうがいいのではないかと思います。


○加藤部会長 ちょっと言葉の使い方は、なかなか難しいのですけれども、今、ここで一応、第2次提言の中では統一して副反応という言葉遣いをしておりますので、ここはひとつ副反応という言葉でのんでいただきまして、そして、機会があるたびに、各委員から出ましたような誤解を生じないような、岡部先生がおっしゃったような、または蒲生委員がおっしゃったような、直接これはワクチンと結びつくものではないというようなことを、各委員会において明示していただくというような方向づけにしていただきたい。言葉遣いとしては、これをまた覆しますと、第2次提言の言葉遣いもまた変えなければならないということになりますので、副反応という言葉遣いで整えさせていただきたいと、私自身は思いますけれども。どうぞ。


○岡部委員 それを含めて分科会で検討していただくというのは、いかがですか。分科会というのは、現行の副反応報告基準について検討する会をつくるというふうに書いてありますから、そこのところで含めて言葉のことも検討してもらうと。


○加藤部会長 いえ、ですから、言葉遣いはもう提言に出ていますので、できれば変えないで、このまま進めていただきたいと。どうぞ。


○岡部委員 今、たまたまコンピュータを見ているのですけれども、例えばWikipediaとか、楽天とか、そういうところにも有害事象という言葉の説明としてはきちんと出ているので、ここはむしろ明らかにしていったほうがいいと思います。2次提言をわざわざ変える必要はなくて、今後のこととしてやっていただければいいと思います。


○加藤部会長 では、北澤委員、どうぞ。


○北澤委員 私も今までの御意見と同じで、国際的な整合性ということもありますし、ワクチンも医薬品なのですから、やはり医薬品との整合性というか、言葉の面でも合わせていっていただきたいと思います。アドバースイベントを有害事象と訳すことが適当かどうかという問題は別途あると思うのですけれども、因果関係があるのかどうか、言葉の使い方を医療界全体で統一的に考えられるようにしていっていただきたい。医療者の中でも、副反応あるいは副作用という言葉の使い方について、ちょっとぐらつきがあるようにも思いますので、第2次提言の言葉遣いはこうだったとしても、ぜひこれから考えていっていただきたいと思います。
 

(略)


結核感染症課長 いろいろ御意見をいただきましたので、今後検討いたします。


○加藤部会長 では、この言葉遣いは、ちょっと私が預からせていただきまして、また、厚生労働省のほうとよくお話し合いをさせていただきたいと思います。そして、また、各委員からの御意見、どういう形かわかりませんけれども、お伺いをしてより正確に物事が伝わるような方向で行っていきたいと、それでよろしいですか。


第23回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会議事録より引用、強調はうさじま

なんと、驚いたことに、「有害事象」ということばはなんとなくイメージが悪いから、「副反応」って言葉を使っちゃえ☆という理由で、現在広く用いられている用語の定義から離れた使い方をしてしまっているようなのです。


例えば米国ではVAERSというワクチン有害事象報告システムがあります。これは、医療関係者だけでなく一般の人でも報告できるシステムですが、それにはきちんと説明がついていて、Adverse Eventは接種との因果関係を問わないと書かれています。Adverse Eventじゃ響きが悪いからSide Reactionにしとくわ☆なんて言ってません(それでもここのデータを曲解して難癖つける人たちもいます)。

VAERSでは、有害事象のデータを見る前にかならず以下のような解説を含むページを見るようなしくみになっています。

VAERS症例報告情報を解釈するために

VAERSのデータを評価する際に重要なことは、報告された事象はどれも因果関係が確立されたものではないことに留意することです。ワクチンが関与している可能性のある有害事象の報告(副作用の可能性のあるもの)が、すべてVAERSに提出されます。従って、VAERSはワクチン接種後のあらゆる有害事象に関するデータを収集しており、その事象が偶然ワクチン接種と同時期に起きたのか、真にワクチンによるものかは問いません。VAERSに寄せられた有害事象報告は、ワクチンがその有害事象の原因であることの証拠書類ではありません。


(原文)When evaluating data from VAERS, it is important to note that for any reported event, no cause-and-effect relationship has been established. Reports of all possible associations between vaccines and adverse events (possible side effects) are filed in VAERS. Therefore, VAERS collects data on any adverse event following vaccination, be it coincidental or truly caused by a vaccine. The report of an adverse event to VAERS is not documentation that a vaccine caused the event.


VAERS Dataのページよりうさじま訳


日本の予防接種行政が行きあたりばったりで一貫性がないというのは色々な場面で感じられることですが、このように、国民をなめたような情報発信を行っていては、予防接種への理解が深まるどころか、「『副反応』報道→パニックに→予防接種の中止→感染症の流行再燃」というシナリオを繰り返すばかりになってしまうのではないのでしょうか(風疹流行への反応を見ていると、「感染症で多少の犠牲者が出るのはしかたがないよね」というのが日本の共通認識なのかもしれませんが…)。「因果関係を問わないものであることを伝えることにする」と言っていますが、厚労省の公式サイトは情報検索が絶望的にしにくい上、報道機関による報道のクオリティも高いとはいえない状況で、正確な情報が広く伝わるとはとうてい思えません。


現在、厚生労働省の「接種後の副反応報告制度」では、予防接種の種類ごとに対象の症状を定め、病院若しくは診療所の開設者又は医師が「副反応」を報告する義務があります。対象の症状は、アナフィラキシー脳炎・脳症、けいれんなど、比較的重い症状や、特定のワクチンとの関係がありそうな症状に限定されています。日本における予防接種「副反応」の報道は、この報告制度に基づいたものになることが予想されます。今後、正確な情報がわかりやすい形で発信されるようになることを説に願います。