シャンプー・羊水・経皮毒

妊娠・出産をめぐる根強い俗説の一つに、「ケミカルシャンプーを使用していた人の羊水からシャンプーの匂いがする」というのがあります。先日、ある有名人のツイートをきっかけに、またこの話題がネット上を駆け巡っていました。この話は前から気になっていたものの、改めて取り上げたことがなかったので、この機会に調べてみることにしました。

さすがに、「羊水がシャンプーの匂いがするか調べた」という論文はないと思いますので、Twitterで皆さんの経験談を募集してたところ、たくさんのお返事を頂きました。ご協力下さったみなさんありがとうございました。

出産経験者(立会経験を含む)方々のお話では、「シャンプーの匂いだった」という方はいらっしゃいませんでした。多かったのは「生臭い」というお答えで、他には「覚えていない」「それどころじゃなかった」というかたも何名かいらっしゃいました。

産婦人科医、小児科医、助産師など医療関係者の方からもメンションをいただきました。まとめを読んでコメントしてくださった方も含め、「シャンプーの匂いの羊水なんて経験したことはない」ということでした

また、産婦人科医・宋美玄先生のブログへのコメントからこのようなやりとりがありました。



もちろん、この調べ方で厳密には「羊水がシャンプーの匂いになることはない」と証明することはできません(何かが「ない」ことを証明するのはそもそも不可能ですし)。でも、数多くのお産を経験された医師の方が、一例も経験がないと口を揃えておっしゃるのですから、やはり「ない」と考えていいと思います。


羊水シャンプーと「経皮毒

「羊水がシャンプーの匂い」という話は、「経皮毒」と結びつけて語られています。「胎内記憶」で有名な産婦人科医の池川明氏は、シャンプーの匂いがする羊水を経験していると、講演会で発言されているそうです。検索すると、FB上に、2013年に千葉で行った講演会の情報が残っていますが、その演題はズバリ「羊水からお花の香りが… 〜赤ちゃんは大丈夫!?〜」と直球です。

池川氏は最近では「胎内記憶」についての講演会を多数行われているようですが、2006年に「女性を悩ませる経皮毒」という本を出版しています。この本は、2005年に出版された竹内久米司・稲津教久共著「経皮毒」を元に、女性向けにしたような内容です。

実は、これらの本に「羊水がシャンプーの匂いになる」という話は出てきません。「シャンプーが子宮に影響する」という内容はあるのですが、「シャンプーによって子宮内膜症になる!?」とされています←「!?」がミソです*1

しかし合成界面活性剤が含まれたシャンプーが子宮内膜症の一因になっているという説があります。この説は実証されたものではありませんが、産婦人科医療に従事する私の立場からすると、かなり信憑性の高い説ではないかと考えています。

「女性を悩ませる経皮毒池川明, p56

10年たっても一向に実証されていないようですが…。

ともあれ、これらの「経皮毒」本では、羊水がシャンプーの匂い、という話は出てこないのです。

しかし、フォロワーさんから、「自分が出産したとき(10年前)にすでに羊水シャンプーの話はあった」というのを教えていただきました。「経皮毒」が有名になったのは、2005年の竹内・稲津本以降なので、「経皮毒」が世に出てすぐに、この都市伝説は作られたのでしょうか。「シャンプー危険論」≒「合成界面活性剤危険論」は、うさじまが高校生だった1990年代前半にはすでにありました*2。もしかすると、「経皮毒」より以前から言われていた「シャンプー危険論」の都市伝説的なものが、「経皮毒」の語り手に取り入れられていったのかもしれません。


そもそも、「経皮毒」って…

経皮毒」については過去記事でまとめています。一言で言うと、まったく実証されていない独自理論です。しかし、洗剤や布ナプキンなどを売るための「付加価値」として便利なのか、現在に至るまで多用されています。

経皮毒は2005年の竹内久米司、稲津教久共著「経皮毒」により流行した概念で、ニューウエイズなどのネットワークビジネスにおいて市販の製品が危険であるという宣伝に使われました。ニューウエイズは2008年、経皮毒についてのDVDなど「経皮毒健康被害 について説明するビデオやDVDを見せて、あたかも同社の製品のみが安全であるかのように告げた」ことなどが問題とされ、3ヶ月間の業務停止命令を受けています。(「特定商取引法違反の連鎖販売業者に対する 業務停止命令について」)。経皮毒は、「石油から作られた合成化学物質は分子量が小さいので経皮吸収されやすい。経皮吸収された化学物質は初回通過効果を受けないので分解されず、脂溶性が高いので皮下脂肪にどんどん蓄積する。一回に吸収される量は微量でも、蓄積して少しずつ体内に放出されたり、ある一定量を超えたところで身体の不調を引き起こす」という主張です。「経皮毒」では、一般的な経皮吸収に関する研究で得られた知見と独自の未検証理論を合体させ、「化学物質と経皮毒」の恐怖を余すところなく伝えています。詳しくは以下のエントリをご覧いただければ思います。この理論は特に科学的根拠はないので学術論文等では発表されておらず、一般書籍や講演会で一般人を怯えさせるのにのみ使われています。

Gazing at the Celestial Blue

日本石鹸洗剤工業会

布ナプキンから広がるディープな世界。エコとダイオキシンと経皮毒, うさうさメモ より再録

貼付剤という、皮膚に貼って全身に効く薬があるように、皮膚にも吸収作用があるのは事実です(経皮吸収)。しかし、吸収されたものは、ふつうに代謝・排泄されます(貼付剤の研究開発では、当然試験されています)

「経皮吸収は、初回通過効果を避けられるから、毒性が出やすい」という話もあります。経皮吸収で初回通過効果が避けられるのは確かにそうです。でも、初回通過効果が薬物代謝のすべてではありません。医薬品で初回通過効果が問題となるのは、口から薬が入ってまず肝臓を通るので、そこで代謝されてしまって(=初回通過効果)必要なところに届く薬の量が減ってしまう、ということろにあります*3初回通過効果をくぐり抜けた薬も、最終的には代謝・排泄されます。経皮的に体内に入った物質も同じです*4

経皮毒の話では、どうも「初回通過効果を受けない」ということが、長期間毒性が続くことの誇張に使われているようです。実際には、舌下・注射・座薬など、初回通過効果を回避させる投与方法は他にもいろいろあり、経皮投与はそこまで特別なものではありません。また、貼付剤の長所として「剥がすことでただちに投与中止できる」ということが挙げられています。もし経皮吸収だと全然代謝・排泄されないなら、剥がしても薬効はずっと続くことになりますが、そんなことはないのです。

また、以下の文献を見れば(確かに界面活性剤は皮膚の透過性を上げると言われているものの)、本来バリア機能を有している皮膚に薬剤を通過させるのは、なかなかの苦労があり、ちょっと洗剤の中に入れただけでじゃんじゃん入っちゃうものではないことがわかります。

なんにせよ、もっとも重要なのは、経皮毒」の現象が、2005年に言われてから10年経っても、一向に実証されていない、ということです*5


シャンプーの「経皮毒」はなぜ「子宮に溜まる」?

「ケミカルナプキン」の「経皮毒」も子宮に溜まると言われています。これはまだ近いので分かるような気もしますが(膀胱でもいいと思うけど…)、なぜ、シャンプー→子宮なのでしょうか?

実は、二冊の経皮毒本では、経皮毒は「子宮に溜まる」とはとくに書かれていません。「皮下に残留する」とか「少しずつ体内に蓄積されて」とかです。そのかわり、シャンプー等に含まれる環境ホルモン物質が子宮に影響を与えて様々な婦人病が引き起こされるというストーリーが語られています。

シャンプーが子宮内膜症を発生させる因果関係については、合成界面活性剤が水道水中の塩素と反応し、その生成化合物としてダイオキシンが発生するので、頭皮などから吸収されてエストロゲンの働きを撹乱していると考えられます。

「女性を悩ませる経皮毒池川明, p57

ダイオキシンは塩素を含む化合物を不完全燃焼させた時などには家庭でも発生しますが、水道水に界面活性剤を溶かした程度で生成するというのは驚きの理論です。

ともあれ、経皮吸収された薬が皮膚に溜まって、それがすぐにはわからないけど長期間影響する、というストーリーには、「微量でも大きな作用をもたらす」という要素が必要なので、環境ホルモンはうってつけと言えます。池川氏の本は、女性向けだからか、特に「環境ホルモン」に焦点を当てた内容になっています。

環境ホルモンダイオキシン類については、1990年代に大きく問題となったものの、その後の研究により、当初に言われた程の危険性はないと考えられるようになってきて、今ではあまり話題になることはなくなっています*6環境ホルモンの話から、「婦人病を起こしたり、胎児に影響する」というところだけが強く残り、「毒が子宮に溜まる」という感じになったのかもしれません。

また、「髪と子宮」の神秘的なつながり、というのもあるかもしれません。フォロワーさんに教えていただいたのですが、羊水シャンプーの話をする人が、「子宮筋腫に髪の毛が混じっていた」という話をしていたとか。確かに「子宮筋腫 髪の毛」で検索すると、そのような話が出てきます。「子宮筋腫に髪の毛が混ざっていて、シャンプーの香りのドロリとした液体とともに出てくる…」。

実はこれ、シャンプーの部分以外は、「皮様嚢腫」という良性の腫瘍の一種では、普通にありえる話だそうです。卵の元となる細胞からできた腫瘍で、体の中に存在するすべての成分が存在する可能性がありますが、多いのは脂肪、髪の毛、歯、皮膚や肺に似た細胞などです。また、未受精(というか、卵になる前)の細胞からできるもので、性経験がなくてもできるようです。

皮様嚢腫については、池川氏の経皮読本でも解説されているのですが、「ホルモンバランスの乱れから起こる婦人病」として他の卵巣のう腫と一緒に一般的な内容が紹介されているだけで、シャンプーとの関連や、まして毛母細胞が移動し…などのような話は出てきません。

しかし、「経皮毒」の解説サイトでは、この皮様嚢腫の原因はシャンプーの毒だ…と書いてあったりします。さらに、「毛母細胞が血管を通じて子宮にいき、そこで育ったために毛玉ができる」などの話も見つけました。

子宮から髪の毛…というエピソードのインパクトも大きいですし、「子宮と髪につながりがある」というのは「女体の神秘」好きにはうけがよさそうなので、こういったエピソードとともに、「経皮毒」は子宮に溜まることになっていったのかもしれません。

でもやはり、「シャンプーの毒が子宮に溜まる」一番の理由は、「女性を脅す」のがこの手の「商売」にとってはたいへん有効であることではないかと思います。妊娠、出産に関係する話は女性にとって最大の脅しになりうるのです。特に、シャンプーや洗剤などは女性をターゲットとしたマーケティングがされることが多いため、女性性を脅すのは「有効」なのだと思います。

女のカラダ、悩みの9割は眉唾 (講談社+α新書)

女のカラダ、悩みの9割は眉唾 (講談社+α新書)

1999年版の「買ってはいけない」にもシャンプーの「危険性」は書かれています。実はこのころは「羊水シャンプー」ではありませんでした。「メリット シャンプー&リンス」について、以下のように書かれていたのです。

頭皮や毛根まで“毒物”が浸透して、さらに体内に蓄積されていく。合成洗剤シャンプーは男性の精子が少なくなった原因にもあげられている。

抜け毛・フケ・かゆみを呼ぶ合成洗剤 メリット シャンプー&リンス」, 山中登志子, 「買ってはいけない」p.85

1999年ですから、まさに「環境ホルモン」の時代。このころ、シャンプーは「男性の精子」と結びついていたのです*7。この話は浸透しなかったようですが*8



「よいシャンプー」を選ぶために

「羊水シャンプー」や「経皮毒」を信じなかったとしても、シャンプー選びは時に困難です。かなり安価な普及品から、高額なサロン専売品、オーガニックな自然派まで、バリエーションは相当ありますし、髪や頭皮のコンディションに影響が大きいことは間違いありません。そして、安価な製品でも、成分表を見ると、驚くほど複雑な組成です*9

大きな影響力のあるアットコスメなどでも、シャンプーについては「成分がよい」という書かれ方をしていることがあります。シャンプーの成分の「良し悪し」については、ずいぶん俗説が出回っていると感じます。うさじまは化学や界面活性剤にそこまで詳しくないので、これらの俗説がどこまで妥当なのか、そして現在市販されているシャンプーの成分にどこまで「良し悪し」があるのか、よくわからなかったります。

そんな中、「理科の探検2015年春号」の「シャンプーにまつわる都市伝説」は興味深く読みました。

季刊 理科の探検 (RikaTan) 2015年 04月号

季刊 理科の探検 (RikaTan) 2015年 04月号

一番の「悪玉」とされているラウリル硫酸ナトリウムが現在ほとんど使われていないこと、界面活性剤の「毒性」の本当のところ、洗浄成分(界面活性剤の種類)による洗浄特性の違い、ノンシリコンシャンプーの無益さ、安全性試験のことなど、非情に参考になりました。

選択肢が多いことは悪いこととは思いません。安価な製品でも普通に使える上に、石けんが体に合うから石けんシャンプーがいいとか、ハーブの香りが好きだからオーガニック一択だとか、憧れの女性タレントの使ってるブランドの高級シャンプー使いたいとか、いろいろな商品が揃っていて個人の好みに応じて選べることは、日本の素晴らしさだと思います。

しかし、自分のところの製品を選んでもらうために根拠なく他社製品をdisる、そしてそのために消費者を根拠なく脅す、といったことはフェアではありませんし、脅し情報はひとり歩きして結局私たちの暮らしを貧しい物にしてしまいます。「ケミカルシャンプー」を避けて、オーガニックな高級シャンプーを使おうとすればお金がかかってしまいますし、石けんシャンプーでは髪の毛がキシキシになってしまうという人もいます*10。安価でよいものが使えるのに、根拠のない脅しによって躊躇する、使えくなる。そんなことないよね、と思っていても、なんとなく気になってしまう…。「羊水シャンプー」をはじめとしたシャンプー都市伝説は、マーケティング目的であれ、悪意であれ、一度一人歩きを始めた「伝説」が私たちの自由を奪おうとする例になってしまっていると思います。

*1:竹内・稲津本では「子宮内膜症にシャンプーが関与?」となっています

*2:高校の家庭科教師に教えられて信じていた黒歴史がありますw

*3:初回通過効果, 役に立つ薬の情報〜専門薬学〜

*4:体内に入った後の代謝・排泄のされやすさは物質によって大きく異なります。シャンプーは「化粧品」または「医薬部外品」に分類され、使用される原料は安全性試験を行ったものです。体内でガチで分解されずに残るような物質は、現在シャンプー等には配合されません

*5:貼付剤というのが近年注目の剤型で、皮膚から吸収された薬物の動態について日々研究されているにもかかわらず…です。

*6:というか、これらの本が出版された2000年代なかばには、すでにかなりトーンダウンしていたと思いますが。

*7:昔は、今よりも「インポになる」などの男性性への脅しにパワーがあった気がします。

*8:今では「経皮毒」解説サイトでは「男性の場合は前立腺に溜まる」とされていることも…。

*9:処方の組み合わせによって膨大な可能性が生まれ、試験が困難になると思われます。よくこんな複雑なものを(安く)開発できるなあと思ってしまいます。

*10:うさじまもそうです…。

WHOは2015年4月現在も、抗がん剤を「禁止」していない

下記のような噂を教えて頂きました。

    • WHOが、2014年5月の理事会で「抗ガン剤を用いるガン化学療法は、極めて危険性が高く、加盟国政府に全面禁止を勧告する」と決議した。
    • 大量の抗ガン剤の在庫を抱える日本厚生省*1は、WHOの抗ガン剤禁止ニュースの配信を差し止めた。

ブログ→FB→Twitterなどの間で流通しているようです(上記のフレーズで検索すると出てきます)。出どころは、船瀬俊介氏の「新医学宣言「いのちのガイドブック」」という著書だと、ブログの一つにありました。*2。この話について、検証してみました。

注:以下、翻訳はすべてうさじまによります。医療・医学の専門家ではないので、訳は参考程度にごらんください。

で、まずWHOのHealth Topicで「Cancer」を検索してみると、トップページの解説がこうです。

がんは、細胞の制御されない増殖と拡散です。がんは、からだじゅうのほとんどすべての部分を侵します。がんはしばしば周囲の組織に侵入し、離れた部位に転移することもあります。がんの多くは、喫煙のような一般的なリスク因子への曝露を避けることで予防できます。加えて、がんはかなりの割合で、特に早期に発見された場合には、手術、放射線治療、化学療法などにより治癒可能です。


Cancer is the uncontrolled growth and spread of cells. It can affect almost any part of the body. The growths often invade surrounding tissue and can metastasize to distant sites. Many cancers can be prevented by avoiding exposure to common risk factors, such as tobacco smoke. In addition, a significant proportion of cancers can be cured, by surgery, radiotherapy or chemotherapy, especially if they are detected early.

Health topics, Cancer, WHO, 2015. 4.24取得

Chemotherapy=化学療法、つまり抗がん剤による治療、普通に出てきました。
そして、「がん」のファクトシートを見ると…

治療

適切で効果的な治療には、正確ながんの診断が不可欠である。がんの種類によって、それぞれ異なる治療計画が必要であるからだ。治療計画には、手術、放射線治療、化学療法などのうち一つまたはそれ以上の治療法が含まれる。第一目的はがんの治癒または大幅な延命である。患者の生活の質を向上させることも重要な目的である。これは、支持的療法または緩和ケア、そして心理的な支援により達成されうる。


Treatment
A correct cancer diagnosis is essential for adequate and effective treatment because every cancer type requires a specific treatment regimen which encompasses one or more modalities such as surgery, and/or radiotherapy, and/or chemotherapy. The primary goal is to cure cancer or to considerably prolong life. Improving the patient's quality of life is also an important goal. It can be achieved by supportive or palliative care and psychological support.

Fact Sheet, Cancer, WHO, Feb 2015

ふつうに化学療法推してます。

あと、Statements(声明)のページを探しても、

ニュースリリースのページを探しても、

該当するような「勧告」は見当たりません。

つまり、

  • WHOは「抗がん剤を禁止する勧告」は出していないし、2015年4月現在、化学療法をがんの治療法の一つに推している。

で、FAでいいみたいです。

この噂の真偽が知りたいだけの方は、ここまでお読みいただければ十分だと思います。

「2014年のWHOの理事会」について調べてみた

さて、船瀬氏の本は読んでいないので、この話がどこから出てきたのか今ひとつよくわからないのですが、ここからは自由研究として、「WHOの理事会」についてもう少し調べてみました。外務省にWHOのことが掲載されています。

(1) 世界保健総会(World Health Assembly)
WHOの最高意思決定機関であり、全加盟国(2009年1月現在193カ国・地域と2準加盟地域)で構成され、毎年1回5月にジュネーブにて開催される。事業計画の決定、予算の決定、執行理事国の選出、事務局長の任命等を行う。


(2) 執行理事会(Executive Board)
総会で選出された34ヶ国が推薦する執行理事により構成される。執行理事会の任務は、世界保健総会の決定及び政策の実施、世界保健総会への助言及び提案など。毎年2回(1月及び総会開催時)行われる。


世界保健機関(WHO)(概要), 外務省

この情報を見ると、どうも「理事会(Executive Board)」というのは、「世界保健総会(World Health Assembly)」と関連が深いようです。WHOのサイトには、これら2つの議事録がちゃんとの掲載されています(5月に総会と執行理事会があったのは本当のようです)。

ここから、世界保健総会と執行理事会の「Resolutions and decisions(決議と決定)」を見てみます。

さて、まず執行理事会のほうです。ここに掲載されている決議事項(p.3)を見ると、「Confirmation of amendments to the Staff Rules(職員規定改正の確認)」とあります。また、決定事項は主に委員会の人選や、次回の保健総会の日時などです。やはり執行理事会というのは、実際の保険施策を話しあうための会議ではないようです。なので、もう一つの「世界保健総会」の方の決議事項を見てみました。

「Resolutions(決議事項)」は25項目。一つ目は結核の予防や治療に関する世界戦略の話です。あとは自閉症、ウイルス性肝炎、疥癬、水銀、女性や子どもへの暴力、伝統医療(Traditional Medicine)、抗生物質耐性菌など、幅広い項目がありますが、抗がん剤に直接関連しそうな項目はありません。「Decisions(決定事項)」は16項目ありますが、こちらもがん関連の項目はありませんでした。

この文書、200ページ以上あって全部を読むのは大変なので、「cancer」で検索して、拾い読みしてみました。すると、下記の項目にがんについての言及がありました。

  • WHA67.6 Viral hepatitis(ウイルス性肝炎についての決議 p.8)
  • WHA67.19 Strengthening of palliative care as a component of comprehensive care throughout the life course(緩和ケアの強化についての決議 p.37)
  • WHO global disability action plan 2014–2021: better health for all people with disability (障がいを持つ人の健康に関するアクションプラン p.90)

他、予算関連など

1つ目は、ウイルス性肝炎からの肝臓がんになるという話で、抗がん剤については言及されていません。2つ目は、緩和ケアの重要性と、緩和ケアに使用する麻薬や向精神薬についての話で、これにも抗がん剤は出てきません。3つ目の項目では、統合失調症を発症している人が糖尿病と大腸がんになりやすいという話が一言出てくるだけです。

というわけで、やはり、2014年のWHOの理事会にも世界保健総会にも、抗がん剤の使用についての決議はないようです。


「WHOがなんたらかんたら」というのは医療デマの定番ではあるのですが、WHOはオフィシャルサイトに情報をたくさん載せてくれますので、検証しやすいのは不幸中の幸いと言えます。この手のデマには、たいてい「ああ、これを曲解したのか」という「元ネタ」が見つかることが多いのですが、今回それが見つけられずちょっとモヤっとしています。しかし、とりあえず「WHOが抗がん剤を禁止した」という事実はないことはわかりました。

*1:発信源でこう書かれていたためか、そのまま流通していますが、「厚労省」ですよね。

*2:この本の目次をAmazonで見ると、確かに「WHOが抗がん剤を全面禁止の衝撃」という項目があります。

インフルエンザワクチン懐疑記事の訂正版と反論記事

続報です。

3月6日に改訂版が公開されました。しかし、記事の趣旨はほぼ変わっていません。また、WHOがインフルエンザワクチンを妊婦、子ども、高齢者、慢性疾患のある人などにたいして毎年接種することをはっきり推奨していることについては相変わらずスルーしています。

この更新の三日後、六本木博之(六分儀ヒロユキ)氏による、元記事に対する反論記事が掲載されました。 

この記事について、六本木氏はtwitter上で以下のように発言されています。 
 





確かに、反論記事も掲載するだけ「まし」とも言えます。しかし、こういった論争の火付けをしたい人(エア論争クリエイター)にとっては、「議論の内容自体は難しそうだし興味もないけど、なんか言われてるらしいね〜」とか「よくわからないけど賛否両論あるっぽいから避けとくか」と思わせるだけでもかなりのメリットになると思われますので、複雑な気持ちです。また、往々にしてこうした反論記事の方がアクセスが少なかったりします*1

医師・医療関係者はインフルエンザワクチンをどう見ているか

医師がインフルエンザワクチンについてどう見ているかを調べてみました。書籍やネット上の情報、またtwitterで頂いたお答えを載せておきます。

ブログ「NATROMの日記」で、「ニセ医学」について幅広く検証されているNATROM先生の著書から。

反ワクチン論者は、ワクチンは万能ではなく欠点もあると主張する。その通りだが、他のあらゆる医療行為と同様である。メリットとデメリットを比較して、メリットのほうが大きければワクチンには価値がある。
たとえば、インフルエンザワクチンについて考えよう。ワクチンでインフルエンザを完全に予防することはできない。ワクチンを打っていても、インフルエンザにかかることがある。インフルエンザワクチンは流行するウイルスのタイプを予想して作られるが、予想が必ずしも当たるとは限らないからだ。さらにインフルエンザワクチンを打つことで、きわめて稀ながら副作用が生じるかもしれない。たとえば、100万回接種あたり1〜2人はギラン・バレー症候群という筋力低下や麻痺、ときには死に至る神経の病気にかかる可能性があるとされている。
しかし、ワクチンを接種するかどうは、メリットとデメリットをよく考えて判断するべきだ。私は、毎年インフルエンザワクチンを接種している。医師であるため、流行シーズンにはインフルエンザに罹った患者さんと接触するし、私自身が感染すると患者さんにうつす危険性だってあるからだ。完全にインフルエンザを防ぐことができなくても、感染したり重症化するリスクを減らすことができれば、十分にメリットがある。

「「ニセ医学」に騙されないために」p.55-56, NATROM

NATROM先生は、ブログの方でもインフルエンザワクチンの記事を書かれていました。

また、神戸大学病院感染症内科診療科長、国際診療部長の岩田健太郎先生は著書「予防接種は『効く』のか?ワクチン嫌いを考える」の中で、インフルエンザワクチンに予防効果がないという根拠として頻繁に引用される「前橋レポート」を詳細に検討しています。前橋レポートが書かれた時代には統計学的に検討した妥当な臨床研究を行うことがまだ困難であったとし、現代の基準で見ればその妥当性には限界があるとした上で、「インフルエンザワクチンには集団的予防効果がある」ことを示した複数の論文(日本の小児の例もあります)を紹介されています

では、近年になって、インフルエンザワクチンの予防価値についての研究があるのかというと、実はこれがあるのです。僕はインフルエンザワクチンについて、なぜ前橋レポートだけが特別に取り沙汰されて、後に出てきた新しい研究が無視されているのか、とても不思議です。

「予防接種は『効く』のか?ワクチン嫌いを考える」p177, 岩田健太郎

また、ワクチンに用いるウイルスの型予想の「当たり外れ」についても言及されています。

インフルエンザワクチンの「当たり年」「外れ年」がある、という個人的な経験をお持ちの方は多いようです。これはその年のインフルエンザの流行の状況にもよります。
しかし、1990年から2000年までの間、アメリカの高齢者を調べると、インフルエンザワクチンを接種された高齢者の方が、されない高齢者よりも、死亡率が低かったのです。1年たりとも外れ年はありません。程度の差こそありますが、インフルエンザワクチン「外れ年」はないのです(Nichol et al. NEJM 2007)。

「予防接種は『効く』のか?ワクチン嫌いを考える」p179, 岩田健太郎

感染症の専門家が、「インフルエンザワクチンは効くのか」という問いについて、根拠を挙げながらわかりやすく解説されています。


以下はTwitterで医療関係者に方に「インフルエンザワクチン接種の是非をめぐっては、医学界でも大きく意見が分かれているといえよう。」という元記事の結論について妥当と思われるかどうかについて質問してみて頂いたお答えです。




上記の堀先生の言葉が象徴するように、「ワクチンの是非」は、状況により、メリット・デメリットのバランスで決まります。医師の方々も「誰に対しては」抜きでは語らない話です。素人が簡単に判断できる問題でも、陰謀論でざっくり語れる問題でもありません。繰り返しになりますが、ワクチン接種に関してはかかりつけのお医者さんに相談するしかないと思います。

*1:六本木博之氏の記事は広く読まれてほしいのですが、この論争が「炎上」して「アクセスが稼げる」となってしまうのは好ましくないわけです。

「クジラが語る、海と生命の進化」@神奈川県立生命の星・地球博物館 2015.2.28


JAMSTECの藤原先生は、深海生物のフォトグラファーとしても有名な方です。そして、先生の鯨骨生物群集の研究にも非常に興味があり、参加してきました。藤原先生についてはこちらの記事で詳しく紹介されています。

以下、メモを元にまとめた藤原先生の講演会内容です。

「鯨が育む深海のオアシス」藤原 義弘(JAMSTEC

深海の3つのオアシス

  • 深海はとても生物量が少ない。海底の泥を集めて生物量を測ると、サンゴ礁では1平方メートルあたり10kgを超えることもあるが、深海では数g程度。
  • 有機物の流れ:植物プランクトン光合成)→動物プランクトン→大きい生物→死骸、フン、脱皮殻がマリンスノーとして深海へ。表層光合成産物のうち深海に届くのは1-3%程度
  • そんな深海の中で、オアシスのようにたくさんの生物がいる場所が3つある。(1)熱水噴出孔生物群集…チムニー(地熱で熱せられた水が噴出する割れ目。重金属や硫化水素を豊富に含む数百度の熱水が湧き出ている)(2)湧水生物群集…プレート同士が衝突する沈み込み域で、活断層などに沿ってメタンリッチな水がしみ出してくる場所(3)鯨骨生物群集
  • これらは硫化水素やメタンを利用する生態系であり、太陽エネルギーを基として生態系とは別の世界。この発見は生物の常識を覆すものだった。1平方メートルあたり数十kgのバイオマス
  • 共生している化学合成細菌が栄養供給している生物が多い。
  • 硫化水素は、通常、生物にとって猛毒である。

鯨骨生物群集

  • 鯨骨生物群集とは、海底に沈んたクジラの死骸の形成される生物群集のこと。
  • 1987年に発見された。
  • 生物量は多く、多様性に富む。また、固有種も多い。
  • 腐肉食期→骨侵食期→化学合成期→懸濁物食期 の4つのフェイズを遷移する。
  • 化学合成期:長い。クジラの骨は巨大で、重量の60%が脂質でできている。その脂質が腐るときに、長期間に渡って硫化水素が作られる。この期間に、生物が流れ着いて、子孫を残すことが可能。
  • 懸濁物食期は、骨の脂質が分解されてしまったあと、生物が固着する基質として残っている状態。実際には見つかっていない。
  • トータルで、数十年〜百年程度、クジラの死骸は海底に残っていると考えられる。

飛び石(ステッピング・ストーン)仮説

  • チムニーから出る熱水には、硫化物と金属が含まれるため、冷えて硫化物が析出し、数年でふさがってしまう。
  • 熱水噴出孔にいる生物は、自分で泳いで移動できるものは少ない。そのため、移動可能な幼生を飛ばして移動させる。
  • しかし、チムニー間の距離は数千kmある→中継ポイントが必要。この中継ポイント=飛び石(ステッピング・ストーン)として、クジラの死骸が利用されているのでは?
  • クジラは年間約8万頭死亡すると考えられている。死骸の残存期間を10年として見積もっても、海底には最短10kmくらいの距離でクジラの死骸があることになる。

飛び石仮説の検証…クジラの死骸を沈めて観察する

  • 2002−2010年、座礁したクジラの遺骸を九州沖に沈め、近くの湧水域にすむサツマハオリムシという生物が群集を作るかどうかを調べた。しかし、サツマハオリムシの群集は形成されなかった…
  • 2005−2012年、湧水域のもっと近くに鯨骨を設置。今度は、さつまハオリムシがついていた!DNAを確認したところ、確かに近くの湧水域のものと同一だった。さらに、水槽で飼育し、産卵、繁殖を確認した。条件が整えば、鯨骨がステッピング・ストーンとなりうることがわかった。

これらの実験についての記事はこちらにも。講演会のスライドにあった写真も掲載されています。 

骨侵食期の生物

  • ホネクイハナムシ(こちらに写真があります)…ゴカイの仲間
  • 口、肛門、消化管はない。クジラの死骸の骨の中にいっぱい「根」をはやして、そこから栄養を吸収する。オスは極端に小さく、生殖のみを行う。
  • Osedax japonicus…2006年、日本から新種記録。ゼラチン質の繭の中に産卵する性質があり、この繭をとって骨と一緒に飼うことで継代に成功。また、共生細菌の培養にも成功している。世界位で唯一、完全飼育に成功しているホネクイハナムシ。

腐肉食期

  • 比較的短く、新鮮なクジラ遺骸が入手困難・深海調査には、1年前に申請が必要となるなどでなかなか研究が進んでいなかった。
  • 2例の調査を元に、「ヌタウナギとサメがまず来る」と言われていた。
  • 2008年〜相模湾へクジラ遺骸沈設実験。もともとそばで深海調査の予定があったために実現した。沈設2週間後から観察。このときは、ヌタウナギではなくコンゴウアナゴがはじめに来た。→クジラの落ちる場所によってくる生物は異なる。
  • 浅いところに沈めたクジラの骨がなくなることが多発→ワイヤーロープで1tのおもりに括りつけ、ビデオ撮影→巨大なサメ(イタチザメ)が持って行こうとしている様子が撮影された!

NHK特番

  • 2008年、赤ちゃんマッコウクジラ(5m)が座礁した遺骸を冷凍保存。冷凍庫を占領して不評を買いながらも、2012年まで保存していた。
  • NHKDiscovery Channelの「深海の巨大生物を追う」という番組*1で、「クジラを沈めれば巨大なサメが来る」として、赤ちゃんクジラを沈めることに。
  • 複数の船と空撮を用いた大規模な撮影。
  • 3人乗りの潜水調査船Tritonで直接観察&タイムラプスビデオ撮影
  • 沈めてから4時間後に、海底のクジラ遺骸発見→浮いている!→サメが食らいついていた!…しかし、サメが撮影できたのはこの一度だけ。ログを見ると、どうやらサメは潜水艇の音で気づいて避けている。NHKには申し訳なかった。
  • 相模湾、500mでは、腐肉食期が2ヶ月で終了することがわかった。

質疑応答

Q1:クジラが沈んでいる場所に偏り(クジラの墓場のような)はある?
A1:クジラはいろんな場所にいるが、回遊コースがある。そのコース沿いに沈んでいることは考えられる。

Q2:はじめの実験で、サツマハオリムシが来なかったのはなぜ?
A2:サツマハオリムシ以外の化学合成依存生物はきていた(貝など)。理由はよくわからない。サツマハオリムシがいる場所が、近いと思ったが、水の出入りのせいで、幼生が来れなかったのかもしれない。また、鯨骨周辺の潮流が速かったのかもしれない。

Q3:クジラの骨のあぶらは炭化水素。S(硫黄)はどこからくるの?
A3:海水中には硫酸塩が溶けている。骨には、コラーゲンも含まれる。

Q4:ホネクイハナムシはどうやって骨を溶かすの?
A4:メカニズムはまだわからない。現在、遺伝子解析を行っている。コラーゲンを溶かすコラゲナーゼは多く発現している。

Q5:クジラの祖先は海→陸→海と戻ってきた。クジラの進化と飛び石仮説に関連は?
A5:クジラの進化とは少し異なるが、クジラの死骸が、進化的な飛び石になっているという別の仮説もある。熱水噴出孔などにいる生物はもともと浅いところにいた。そこからクジラ死骸などのマイルドな硫化水素の環境に慣れ、熱水噴出孔で生存できるようになったのではないかという説。

スライドがとても美しく、見やすかったのは、さすがです。もちろん、お話も大変興味深いものでした。貴重な写真や動画もたくさんありました。ちょっと遠かったですが、行ってよかったと思います。海底に沈んだクジラの死骸の上で繰り広げられる生命の営み。ロマンがありますねー!神奈川県立生命の星・地球博物館JAMSTECの合同企画は今年で三回目、また来年もやる予定とのことでした。

神奈川県立生命の星・地球博物館常設展示

この博物館のHPによれば「地球と生命・自然と人間がともに生きることをテーマに活動する自然史博物館として、地球全体の過去から現在にわたって幅広く、また、神奈川を中心に、自然科学に関する資料を収集・収蔵管理」とあります。常設展示には、3階まで吹き抜けのホールに、石の壁や鉱物標本、化石、そして生物の剥製が大量に展示されていて圧巻でした。

大きくて立派な鉱物標本たち

アンモナイトの壁

骨あり…

でっかい木あり…(途中まで)

剥製あり…

しろくまに狙われるカピバラさんあり…

イケメンタイリクオオカミさんあり…

サイあり…

おまけ

せっかくなので箱根温泉に宿泊。翌日は箱根登山鉄道に乗って宮ノ下まで。

あいにくの悪天候でしたが

富士屋ホテルでお茶しました。

フレンチトーストは、外はサクっとしていて、中にはしっかり卵液が染み込んでいてトロっとしていて、たいへん美味しかったです。案内された席には、「ジョン・レノンが座ってアップルパイを食べた席」とありました。アップルパイを頼めばよかったかな?ちなみにアップルパイは外のパンショップでも購入できました。

えるかふぇで酵素のお話をさせていただきました(スライドシェア)

2015年2月22日、えるかふぇ@lcafe_bkさんで酵素のお話をさせていただきました。多くの方にお越しいただき、とても有意義な時間を過ごすことができました。参加者の皆様、えるかふぇスタッフの皆様、本当にありがとうございました。

個人的にはいろいろと反省点もありました。もう少し、参加者のみなさんとお話できるような空気を作れればよかったと感じています。正直、話すことに精一杯になっておりました…。

当日使用したスライドをシェアします。

当日バージョンと若干違います。当日バージョンは見てくれた人だけのヒミツ♡

あと、引用した資料等のリンクを貼っておきます。

本ブログの関連エントリ

持ってった教科書です(大学レベル?)

改訂 酵素―科学と工学 (生物工学系テキストシリーズ)

改訂 酵素―科学と工学 (生物工学系テキストシリーズ)

WHOはインフルエンザワクチン接種を推奨している

2015.3.16追記

続報を書きました。

2015.1.26追記
元記事は現在「1月23日に掲載致しました本件記事につきまして、現在追加取材中につき一時的に非公開にしております」と記載され公開停止されています。しかしながら、いったん拡散された誤情報は転載等によりネット上でなんどもよみがえり、利用されることがあります。この記事はそのようなときのためにとりあえずは消しません。Business Journal により適切な訂正がなされることを願います。


インフルエンザの流行がピークを迎えています。そんな中、下記のような記事が公開されました。

この記事には「世界保健機関(WHO)のホームページを見ても、『ワクチンで、インフルエンザ感染の予防はできない。また有効とするデータもない』と書いてあります。そもそも、インフルエンザはA香港型、Aソ連型、B型などと分類しますが、同じ型であってもウイルスは細かく変異を続けているため、ぴったりと当てはまる型のウイルスを事前につくり出すことは事実上不可能です」などの記述があり、「ワクチンを打つことの是非は意見が分かれるところだが、予防効果には多少疑問がある。それどころか、毎年ワクチンの副作用によって死者も出ている。惰性で接種するのではなく、熟慮の上で判断するようお勧めしたい。」と結んでいます。「熟慮の上」と言われても素人には判断が非常に難しいことですし、あのWHOが「感染予防はできない」と結論したなら、うたないほうがいいかな…なんて思っちゃいそうです。

では、WHOのインフルエンザに関するWebページではどう書かれているのでしょうか。ファクトシートの「予防」の項目をざっと訳してみました(なお、今回の訳はあくまでざっくりですので、細かい医学用語に間違いがあるかもしれません。あくまで参考にとどめてくださいますよう、おねがいします)。

予防

インフルエンザおよび/またはそれによる重篤転帰を防ぐのにもっとも有効な手段は予防接種である。安全で有効なワクチンが利用可能であり、60年以上前から使用されている。正常成人に対しては、インフルエンザワクチンは妥当な防御手段となるだろう。高齢者に対しては、インフルエンザワクチンの疾病予防効果は低くなる可能性があるが、重症度や、合併症発生率および死亡率を低下させるかもしれない。

予防接種は、重症インフルエンザ合併症に対して比較的ハイリスクな人、またハイリスクな人と生活を共にしている人や介護している人には、特に重要である。

WHOは以下の人に対して毎年予防接種することを推奨する。

  • 妊娠のすべての段階にある妊婦
  • 生後6ヶ月〜5歳の子ども
  • 高齢者(65歳以上)
  • 慢性疾患のある人
  • 医療従事者

インフルエンザ予防接種は、広まっているウイルスがワクチンとよく一致している場合にもっとも有効である。インフルエンザウイルスは絶えず変化するため、WHO Global Influenza Surveillance and Response System (GISRS)(世界各地のNational Influenza Centresが連携している)が、ヒトの間で循環しているインフルエンザウイルスを監視している。

WHOは長年、ワクチンの成分についての推奨を半年ごとに更新してきた。これは、もっとも広まっている3つのウイルスの型(3価/2種類のA型ウイルスと1種類のB型ウイルス)を対象としている。2013-2014の北半球のインフルエンザシーズンの始まりと共に、従来の3価ワクチンに加え、B型ウイルスの第2の型を加えた4価ワクチンの成分についても推奨を開始している。4価のインフルエンザワクチンは、B型インフルエンザウイルスの感染に対して、より幅広い防御効果が期待される。


Prevention
The most effective way to prevent the disease and/or severe outcomes from the illness is vaccination. Safe and effective vaccines are available and have been used for more than 60 years. Among healthy adults, influenza vaccine can provide reasonable protection. However among the elderly, influenza vaccine may be less effective in preventing illness but may reduce severity of disease and incidence of complications and deaths.

Vaccination is especially important for people at higher risk of serious influenza complications, and for people who live with or care for high risk individuals.

WHO recommends annual vaccination for:

  • pregnant women at any stage of pregnancy
  • children aged 6 months to 5 years
  • elderly individuals (≥65 years of age)
  • individuals with chronic medical conditions
  • health-care workers.

Influenza vaccination is most effective when circulating viruses are well-matched with vaccine viruses. Influenza viruses are constantly changing, and the WHO Global Influenza Surveillance and Response System (GISRS) – a partnership of National Influenza Centres around the world –monitors the influenza viruses circulating in humans.

For many years WHO has updated its recommendation on vaccine composition biannually that targets the 3 (trivalent) most representative virus types in circulation (two subtypes of influenza A viruses and one B virus). Starting with the 2013-2014 northern hemisphere influenza season, quadrivalent vaccine composition has been recommended with a second influenza B virus in addition to the viruses in the conventional trivalent vaccines. Quadrivalent influenza vaccines are expected to provide wider protection against influenza B virus infections.

以上のようにWHOははっきりとインフルエンザワクチン接種を推奨しています。そもそも、文中にあるように、WHO自身が、ワクチンに使用すべき株の推奨を発表しているのです。

↑こちらから、ワクチンに使用する株のリコメンデーションを見ることができます。北半球と南半球で別になっていますね。

↑また、このようなキャンペーンもあります。

Global Action Plan for Influenza Vaccines (GAP)は、世界各国において、季節性のエピデミックおよびパンデミックに対する現在の世界的なインフルエンザワクチン不足を改善するための包括的戦略である。以下の3つを主要な取り組みとする。

  • シーズンごとのワクチン使用を増加させる。
  • ワクチン製造能力を拡大する。
  • 研究開発


Global Action Plan for Influenza Vaccines (GAP) is a comprehensive strategy to reduce the present global shortage of influenza vaccines for seasonal epidemics and pandemic influenza in all countries of the world through three major approaches:

  • Increase in seasonal vaccine use
  • Increase in vaccine production capacity
  • Research and development

元記事では「感染予防効果」にのみフォーカスしていますが、WHOのサイトにあるように「重症化や合併症の予防、死亡率を低下させる」ことにも大きな意味はあります。WHOの「結論」は、「ワクチンでインフルエンザは感染予防不可能」ではなく、「妊婦、高齢者、子ども、慢性疾患のある人、医療従事者は毎年予防接種することを勧める」です。毎回書いていますが、ネット上のワクチン情報はノイズがかなり多いですので、予防接種について迷ったら、かかりつけのお医者さんに相談することをおすすめします。

なぜ「レリゴー」はオリコンシングル年間ランキングに入ってないのか?

ここ数年、年末になると「オリコンシングル年間ベスト10がアイドルばっかり」という話題が盛り上がっている気がします。今年も、こんな記事をみかけました。


これらの記事の中で、「ジャニーズ系はiTunesで配信されてない」ということは記載されているのですが、じゃあ「アナ雪」は?と思いました。松たか子の「ありのままで」はiTunes年間ランキングは1位なのに、オリコンではトップ10入りしていません。

実は、この理由は単純で、「ありのままで」がシングルカットされていないからでした。松たか子の「ありのままで」も、英語版の「Let it go」も、CD音源はサントラ盤のみとなっています。MayJバージョンも、「配信限定シングル」として発売されています。で、サントラ盤ですが、オリコンアルバム年間チャートで2位、推定累積売上数は98万枚と、AKBと嵐に挟まれて健闘しています*1。というか、サントラでミリオンに迫る勢いというのはすごいのではないでしょうか。iTunesではアルバムの曲も一曲ずつダウンロードできて、それが年間トップセラーランキングに反映されるのです*2。だから、アナ雪の挿入歌「生まれてはじめて」もTop10入りしているのですね。

また、Pharrell WilliamsのHappy(iTunesランキング5位)ですが、こちらはどうやら基本的に配信のみでCDは輸入盤しかないみたいです。オリコンランキングは輸入盤も集計してるようですが、こういう曲は配信でよく売れるのは理解できます。そもそも話題になったのもYouTube発信ですからね。

昔、音楽の売れ行きがわかるデータはオリコンしかありませんでしたし、音楽は基本、CD・レコードショップで買うしかありませんでした。しかし、今ではいろいろなダウンロード販売が存在し、音源を手に入れるチャンネルも多様化しています。その中で「真のランキング」を決めることは非常に困難なのではないでしょうか。たとえば、上記の記事で「オリコンより納得感がある」と言われているiTunesランキングですが、ネットをするような人にとってはそうかも知れませんが、iTunesなんて存在も知らないような層もいるわけです。

あと、市場規模として、日本国内ではCDがダウンロード販売より圧倒的に大きいのです。

こちらは2013年のデータになりますが、CD販売が総額1,962億円に対して、ダウンロード販売はアルバム+シングルで295億円、着うた69億円となっています。iTunesはさらにその一部となります。

また、シングル発売されている曲でも、全てがiTunesにあるわけではありません。レコード会社の方針とか、アーティストのこだわりによって、CDでしか出してない人もいます。ジャニーズなんかはそうですが、上で引用した記事のタイトルは「ジャニーズがiTunesランキングに入ってない」ことを煽り気味に書いていてどうかと思います。オリコンランキングが日本で一番権威があるランキングとされているためにその「攻略法」が研究されてしまって、結果的に偏ったランキングになってしまっている面があるのは否めないとしても、「iTunesのほうが『真のランキング』を反映している」と簡単に言えませんよね(そもそも『真のランキング』って、なに?)

音楽の売れ行きだけでなく、さまざまな社会調査やアンケートの類でも同じことで、「どういう集団を対象に、どうデータを取ったか」で結果が全然違ってくるというのはごくアタリマエのことです。ランキングや「○○%の人が」と言った数値にされてしまうとそれがひとり歩きしてしまいがちです。「真のランキング」はこの世にないことを心に刻み、「どういうデータなのか」に留意しながら一つ一つのデータを見る・比較する癖をつけることが、この世の中で情報の波に溺れないための第一歩になるのではないでしょうか。


と、これだけで終わったら「うん知ってた」と言われそうなので、いろいろな音楽ランキングの年間Top10を比べてみたいと思います。

オリコンランキングはこちらからご覧ください。ちなみに、上位5曲が全部AKB48、あとは嵐2曲、EXILE TRIBE1曲、乃木坂2曲となっています。

iTunes

iTunes 年間トップセラー:ソング>
1位 レット・イット・ゴー〜ありのままで〜(日本語歌) 松たか子
2位 ひまわりの約束 秦基博
3位 ストーリー・オブ・マイ・ライフ ワン・ダイレクション
4位 レット・イット・ゴー イディナ・メンゼル
5位 ハッピー ファレル・ウィリアムス
6位 Darling 西野カナ
7位 ずっと feat.HAN-KUN & TEE SPICY CHOCOLATE
8位 春風 Rihwa
9位 RPG SEKAI NO OWARI
10位 生まれてはじめて(日本語歌) 神田沙也加, 松たか子

アナ雪が3曲。うさじまもカラオケ練習用に買いました。iTunesの特徴として、比較的洋楽が強いこと、ネット上で話題になったものが即座にダウンロードされて売れるという傾向があるように思います。あとはやはりiPhone利用者はiTunesから買うことが多いんじゃないでしょうか。


レコチョク

レコチョク ランキング(ダウンロードシングル)
1位「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜(日本語歌)」 松たか子
2位「ずっと feat. HAN‐KUN & TEE」 SPICY CHOCOLATE
3位「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜(エンドソング)」 May J.
4位「春風」 Rihwa
5位「レット・イット・ゴー」 イディナ・メンゼル
6位「Darling」 西野カナ
7位「喧嘩上等」 氣志團
8位「恋するフォーチュンクッキーAKB48
9位「RPGSEKAI NO OWARI
10位「TSUKI」 安室奈美恵

「着うた」があるのがいちばんの特徴ですが、スマホの普及で「着うた」市場は縮小しつつあるそうです*3。二位のSPICY CHOCOLATEは知りませんでした。iTunesでも年間7位に入ってました。レゲエアーティストだそうです。May.Jのレリゴーもランクイン。
ちなみに着うたのランキングは以下の通り。

着うた(R)ランキング
1位「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜(日本語歌)」 松たか子
2位「ずっと feat. HAN‐KUN & TEE」 SPICY CHOCOLATE
3位「春風」 Rihwa
4位「喧嘩上等」 氣志團
5位「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜(エンドソング)」 May J.
6位「TSUKI」 安室奈美恵
7位「Darling」 西野カナ
8位「レット・イット・ゴー」 イディナ・メンゼル
9位「We Don't Stop」 西野カナ
10位「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」 ワン・ダイレクション

シングルランキングとあまり差がないですね。氣志團が健闘しています。

スペースシャワーTV(音楽専門チャンネル

SPACE SHOWER COUNTDOWN 20 2014年間 ランキング
1位 スノーマジックファンタジー SEKAI NO OWARI
2位 ray BUMP OF CHICKEN
3位 ヒカレ ゆず
4位 Mighty Long Fall ONE OK ROCK
5位 足音 Be Strong Mr.Children
6位 東京VICTORY サザンオールスターズ
7位 evils fall MAN WITH A MISSION
8位 グッドバイ サカナクション
9位 猟奇的なキスを私にして ゲスの極み乙女。
10位 Are We Special? The Shower Club

SUPER HITS PERFECT RANKING 100 2014年間 ランキング
1位 Bittersweet 嵐
2位 GUTS ! 嵐
3位 ラブラドール・レトリバー AKB48
4位 誰も知らない 嵐
5位 キング オブ 男!(Short Ver.) 関ジャニ∞
6位 AinoArika Hey!Say!JUMP
7位 言ったじゃないか(Short Ver.) 関ジャニ∞
8位 ひびき 関ジャニ∞
9位 前しか向かねえ AKB48
10位 ウィークエンダー Hey!Say!JUMP

スペシャはCSの音楽専門チャンネル。独自ランキング(SPACE SHOWER COUNTDOWN )と「CDセールスはもちろん、配信ランキングやカラオケランキング等」を考慮した「SUPER HITS PERFECT RANKING 」の二種類の集計をしています。いやあ、この差が面白いですね!スペシャチャートの10位はスペシャ25周年記念のスペシャルユニット。サカナクション、MWAM、ゲスの極み乙女などもいかにもスペシャっぽいラインナップ。セカオワは他のチャートと異なりスノーマジックファンタジーがランクイン。スーパー・ヒッツは見事にアイドル一色です。

TSUTAYA

TSUTAYA 年間ランキング レンタルシングル 2014
1位 GUTS ! 嵐
2位 ゲラゲラポーのうた 妖怪ウォッチ/キング・クリームソーダ
3位 Bittersweet 嵐
4位 Darling 西野カナ
5位 スノーマジックファンタジー SEKAI NO OWARI
6位 春風 Rihwa
7位 炎と森のカーニバル SEKAI NO OWARI
8位 ひまわりの約束   秦基博
9位 We Don’t Stop   西野カナ
10位 RPG    SEKAI NO OWARI

レンタルランキングはCDを売るための購入特典とは無縁で、ある意味純粋に曲を聞きたいという需要によるランキングとも言えます。さきほどのASCII.jpの記事によれば、CD購入に続く利用率だそうですので、「よく聴かれている曲」を知るにはこちらも無視できない存在でしょう。嵐はここでもつよい。妖怪ウォッチがランクイン。セカオワが3曲、西野カナ2曲入っております。

USEN

2014 年間 USEN HIT J-POPランキング
1位 レット・イット・ゴー〜ありのままで〜 松たか子
2位 ひまわりの約束 秦 基博
3位 にじいろ 絢香
4位 ラストシーン JUJU
5位 Darling 西野カナ
6位 春風 Rihwa
7位 心のプラカード AKB48
8位 東京VICTORY サザンオールスターズ
9位 ゲラゲラポーのうた キング・クリームソーダ
10位 日々 吉田山田

有線というと演歌に強いイメージですが、JPOPチャンネルもあります。ジャンル別なのでJ-POPランキングを。「にじいろ」は朝ドラの曲ですね。JUJU、吉田山田など他にはない顔ぶれも。嵐は入ってないですが、30位までにジャニーズがひとつもないので、ジャニーズはこのランキングにはカウントされてないようです。


Biillboad Japan

Billboard Japan Hot 100 Year
1位 嵐 「GUTS!」嵐
2位 AKB48 「心のプラカード
3位 AKB48 「ラブラドール・レトリバー
4位 嵐 「誰も知らない」
5位 嵐 「Bittersweet」
6位 ファレル・ウィリアムス 「ハッピー」
7位 松たか子「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」
8位 東方神起 「Time Works Wonders」
9位 秦基博ひまわりの約束
10位 ワン・ダイレクション「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」

ビルボード・ジャパンの集計方法はオリコンとはかなり異なり、パッケージ・セールス、iTunes Japan 配信回数、AM/FM ラジオ・エアプレイ回数、 Twitter のツイート回数及び CD の Look Up 回数を合算しているそうです。*4。あとシングルカットされていなくてもカウントされるようです。言ってみれば独自に「真のランキング」を作成しようといろいろ試行錯誤している会社のようです。西野カナは11位、恋チュン12位。HAPPYはTwitterでずいぶんバズってたのでその影響も大きそうです。


そろそろ飽きてきましたね!これだけのチャートを見てみると、厳密な順位はともかく、「今年のヒット曲」「売れた曲」が見えてくる気がします。いろいろなランキングを比べながら、なんでここではこれが上位にきてるのかなーといろいろ考えてみるのは面白いです。あと、レンタルランキング、ビルボードランキングを見ても、嵐はやっぱり人気があるのでしょう。ジャニーズがまったくカウントされないチャートというのも、それはそれで偏っていると言えますね。

*1:2014年 年間アルバムランキング 1位〜25位, oricon

*2:同じ曲がシングル、アルバム、ベスト盤など異なる音源に収録されている場合に合算されているかどうかなどの詳細は見つけられなかったのですが、iTunes上では音源が違っても同じ曲は同じ曲として認識されるので多分合算されていると思います。

*3:日本は世界と逆行中!? 音楽配信サービスシェア早分かり, ASCII.jp

*4:Japan Hot100 に Twitter とグレースノート社のデータを合算 新たな視点を加えて国内唯一の総合楽曲チャートをリニューアル,プレスリリース